それから2週間、蘭は外泊もせずずっと学園にとどまっていた。 ああは言っても、蘭は整っているものが好きだ。自然といいと思う男の種類は限られてくる。 「ああ、暑い…」 うだるような暑さが首筋を焦がす。 ――――夏がもう近づいている。 「蘭、最近外泊はやめたのか?」 夏の日差しは嫌いだ、すぐに生徒会室に戻ってクーラーの効いた部屋で涼む。目を瞑って汗が引くのを待っていると、ふと声がした。 目を開けずに「そうだよ」と答えると、くつくつと喉の奥で笑う声がした。 「宝(たから)、何」 「いやぁ、なんだかご機嫌ナナメだと思って」 鷲津宝(わしづ・たから)は会長のプレートが書かれた机の上に長い脚を乗せて、書類を見ながら口元だけで笑って見せる。 態度でかい、やなやつ。 呟かなかったけれど、露骨に顔をしかめてやる。見えていないと思っていたけれど、そういうときに限って宝はこっちを見ている。 「イライラしてんな。生理か?」 「馬鹿にしないで」 ああもう、ホントウに疲れる。 「仕事しろ、蘭」 「今休憩中。僕のやることはもう終わってる」 「まだだ。新しいのが増えた。理事長からの直々のありがたーい奴だ」 「…うっとおしい」 宝の顔見ると、ひっぱたいてやりたくなる。 鷲津宝は、いつも飄々(ひょうひょう)としている。 クールに表情を変えず、淡々となんでもやってのける。勉強もスポーツも、こいつにできないものなんてない、完璧な人間。 そんな宝が生徒会長になるなんて当然だったし、僕が副会長をするのも当然だった。来る者拒まず、だけど対等に見ることはない。そんな宝と一番仲がいいのは僕だったから。 「最近外泊はしてねえの?」 「うん。もう理由はないし」 「ふうん。だからいっつもあるやつがないんだ」 「なにが」 宝はいつもこうやって、答えを言わないで焦らすことが多い。 こいつが表情を変えるときは、人を馬鹿にしているときだけだ。 「ジョウネツテキなキスマーク」 とんとん、と首筋を指でさす。 そこは僕が流した汗があるだけで、他にはなにもない。 ← | top | → ×
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