01



それから2週間、蘭は外泊もせずずっと学園にとどまっていた。
ああは言っても、蘭は整っているものが好きだ。自然といいと思う男の種類は限られてくる。

「ああ、暑い…」

うだるような暑さが首筋を焦がす。
――――夏がもう近づいている。



「蘭、最近外泊はやめたのか?」

夏の日差しは嫌いだ、すぐに生徒会室に戻ってクーラーの効いた部屋で涼む。目を瞑って汗が引くのを待っていると、ふと声がした。
目を開けずに「そうだよ」と答えると、くつくつと喉の奥で笑う声がした。

「宝(たから)、何」
「いやぁ、なんだかご機嫌ナナメだと思って」

鷲津宝(わしづ・たから)は会長のプレートが書かれた机の上に長い脚を乗せて、書類を見ながら口元だけで笑って見せる。
態度でかい、やなやつ。
呟かなかったけれど、露骨に顔をしかめてやる。見えていないと思っていたけれど、そういうときに限って宝はこっちを見ている。

「イライラしてんな。生理か?」
「馬鹿にしないで」

ああもう、ホントウに疲れる。


「仕事しろ、蘭」
「今休憩中。僕のやることはもう終わってる」
「まだだ。新しいのが増えた。理事長からの直々のありがたーい奴だ」
「…うっとおしい」

宝の顔見ると、ひっぱたいてやりたくなる。






鷲津宝は、いつも飄々(ひょうひょう)としている。
クールに表情を変えず、淡々となんでもやってのける。勉強もスポーツも、こいつにできないものなんてない、完璧な人間。
そんな宝が生徒会長になるなんて当然だったし、僕が副会長をするのも当然だった。来る者拒まず、だけど対等に見ることはない。そんな宝と一番仲がいいのは僕だったから。


「最近外泊はしてねえの?」
「うん。もう理由はないし」
「ふうん。だからいっつもあるやつがないんだ」
「なにが」


宝はいつもこうやって、答えを言わないで焦らすことが多い。
こいつが表情を変えるときは、人を馬鹿にしているときだけだ。


「ジョウネツテキなキスマーク」


とんとん、と首筋を指でさす。
そこは僕が流した汗があるだけで、他にはなにもない。



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