ハニーの日

初めて唯を見た瞬間、欲しいと思った。



永知鷹臣(えいち・たかおみ)は、今まで恋をしたことがなかった。好きという気持ちを知らずいろいろと経験をしてきたため、そういったことは豊富だが、恋愛経験は0に等しかった。
適度に欲を発散しながらもいつしか高校2年生になり、そしてそこで永知は運命の出会いを果たした。


自分のことを、きらきらとした「尊敬」という純粋な感情のまま見つめる綺麗な男。それが、副会長に就任した瀬尾唯(せのお・ゆい)だった。


「は、はじめまして。副会長に就任した、瀬尾唯ですっ…。僕、永知会長と一緒に働くの、夢でした…」

ぽう、と頬を赤く染めてそんな可愛いことを言うものだから。

(勃った…なんだこの可愛い生物は…)

それが、鷹臣にとっては至高の、唯にとっては涙の生活の始まりだった。



「ゆーい、どーこだー」
「おい瀬尾、探してんぞダーリンが」
「やだやだっ!!先生はだまってくだ「ゆーい」きゃわああ!!!」

今日も今日とて、追い掛け回されて逃げ回る日々。
前回の反省を生かし、今度は職員室に教師がいる状態で机の下にもぐりこんだ唯。足元でうずくまる唯に話しかける教師に、どきどきと高まる心臓を抑えてただひたすら永知が過ぎ去るのを待つ。
だけど唯センサーに関しては他を許さない永知をそう簡単に出し抜けるはずがなく。
いとも簡単に見つかると、教師も永知の背中を押すようにアシストすると、涙目で連れ去られる唯にバイバイと手を振り自分の仕事に戻って行った。


「かいちょ…!」
「今日はな、ハニーの日なんだってよ。知ってたか?」
「は、はにぃ…?」
「そ。だから、」

もう何度足を踏み入れたかわからない永知の部屋のソファにとさりと下ろされる唯。
なんだか嫌な予感がしたけれど、そのままキッチンに向かっていった永知にほっと一息つく。

「唯甘いもん好きだろ?」

しばらく手持ち無沙汰にクッションをいじいじと触っていた唯に、いい匂いを携えた永知がひょこっとキッチンから顔を出す。
その匂いにきゅるる、と可愛くお腹が鳴った。

「ホットケーキですか…?」
「そ」
「食べて、いいんですか…?」
「いいよ」

ぽわぽわと瞳を瞬かせ、目の前のきちんと切り分けられた4重のホットケーキのひとかけらにフォークを突き刺す。

「…おいしぃ」
「そうか、よかった」

バターとはちみつもきちんとあって、ほかほかで美味しい。
途中自分ばかり食べていては悪いと、唯が永知にフォークを差し出す。

「かいちょ…」
「いいよ、唯のために作ったんだし」

いつもと違う永知に戸惑いながらも、その優しさに感動する唯。見返りを要求されたらどうしよう、とびくびくしていた自分が恥ずかしかった。

「ごちそうさまでした…!」
「うまかったか?」
「はい!本当にありがとうございました…!」
「そうか」

大満足でにこにこと笑う唯に、頷く永知。
そのまま唯が帰ろうと立ち上がった時

「おっと唯。まさかお前これで帰るわけねえよな?」
「―――――え?」

さっきまでとは、なんだか違う。
今度こそ嫌な予感に永知の方に振り向くと。

「今日はハニーの日だからなぁ。俺のハニーにハニーをかけて、じっくり堪能しなきゃなあ」

手には、ホットケーキにかけられたはちみつを持って。

「や、やああああ〜〜〜っ!!!」

べたべたになっちゃう〜〜!!
いいだろ別に、はちみつ以外のモンでも汚れるんだし。
いやいやと抵抗する唯を唇で黙らせ、濃厚なキスに腰砕けになった唯を寝室まで運ぶ。

「べったべたの、どろどろに溶かしてやるよ」


おわり


永知は真剣に言ってます。親父ギャグじゃないんだから…!///


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