∴ 最強・陽摘様

「統臥、凪くんとはなんか進展あった?」
「いや…」
「はああ?ばか統臥!もうすぐ何があるか知ってんの!?」
「は…?」

今日も今日とて、理不尽に怒られる元ヤリチン現ヘタレの、恋する会長国見統臥。
彼をまるでお母さんのように叱りつける小柄でフランス人形のような愛くるしい顔立ちから飛び出る暴言は、新入生ガッカリランキングトップ10にもランクインするものである。
可愛らしい顔でぷりぷり怒るならまだしも、親衛隊総隊長でもあり、統臥の幼馴染でもある榎本陽摘にとって、統臥の恋を成就させることにすべての勢力を注いでいるといってもいいほど、ガチである。

「夏休み…?」
「はあ、もうだめだね。その前にあるでしょ、大事なもの!」
「…?」
「き・ま・つ・こ・う・さ!!!」
「期末考査なんか、大事か…?」

そういうと、ぱこーんと長身の統臥の頭をめいいっぱい背伸びして叩く。

「うお…!」

そのあまりの愛らしさに、でれでれとする生徒多数。
それをにらみつける保険医一人。

「またトウガかくそ…」

そんなつぶやきは陽摘には聞こえていない。統臥は殺気を感じていたので尊の存在にはだいぶ前から気づいていた。

「言っとくけど、凪くんってばかだよ!?」
「おいお前…」

なんて失礼なことを言うんだ、とさすがの俺様統臥もたじたじである。

「統臥ヘタレだけど頭いいじゃん!ヘタレだけど!」
「おいなんで二回言った」
「だからこれがチャンス!おばかな凪くんに勉強教えてあげなよ!そしたらあのネクタイのときみたいに、なんか進展あるかも!」
「…おお」

ネクタイ、とは凪が統臥を呼び捨てすることになったきっかけである。ヘタレにとっては大きな一歩である。

「今から勉強教えてあげなよ!多分凪くん、教室で頑張ってるから」
「は?なんで俺が…」
「放課後も一緒に理由つけていれるし、多分凪くん、統臥にますます気持ち許すだろーね。単純だもん、そこが素敵なんだけど」

けなしてるのか褒めてるのかわからない言葉を、ここにいない凪に向かって投げつける陽摘。だけどその眼は慈愛に満ちているので、統臥も不快な気持ちにはならなかった。

「おー…まあ、頑張るわ」
「うん」
「頑張るから、陽摘も睨みつけてくるお前の彼氏どーにかしろよ」
「彼氏じゃないから。…もう、しょうがないな…。なんとかするから、ちゃんと統臥は凪くんと進展しなよ?」
「わかったよ」

じゃあな、と言って若干早歩きで教室に向かう統臥に可愛い奴め、と陽摘がそれを見送る。
そして廊下の隅でじっと見つめていた尊に足を向けて

「せんせぇ」
「っ、ひつ――」
「うろちょろしないでよ馬鹿。怒るよ?」
「…」

ぐ、と拳を握りしめ顔の横に持ち上げる陽摘。
そんな様子も可愛いと思う末期状態の尊。

「…そういえば、尊って何気頭良かったよね」
「何気って…、まあ、それなりに」
「ここ、わかんないんだけど、…ちょっと、教えてよ」

上目遣いでねだる陽摘。

「任せろ。じゃあ保健室行くか」
「うん」




「なあ陽摘、俺ともっかいつきあ――」
「やだ」


end


もうすぐテストなので置き土産残し ひつは消えます
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