銀河


電車に乗りたい。
それほど大きいでもない理由と荷物を抱えたうえでの移動は、どんなに楽しいんだろうかと思う。多分しょうもないけど。


チャイムは鳴らすこともなくドアを開けて、裸足で廊下を歩く。きしむ音が一度だけして不安になった。リビングのソファで堂々と寝ている彼を叩き起こす。しかめ面して起きた彼はまだ目覚めきらないようだった。

「どっか行きたいなぁ」
「めんどくせぇ」

シズちゃんは出不精であまり動こうとしない。いや休みだからとか暑いとか、課題が残っているのも原因かもしれないけど、あんなのならすぐ終わるじゃない。「手前じゃねえんだから」あ、露骨に嫌な顔した。だめだよそんなんじゃ、将来しわだらけになるよ。動かないなら俺が寄ってあげる。


「電車でね、誰も分かんない遠くまで乗せてってほしい、それでも電車はまた戻してくれる。優しいよね」

何を言っているのだろうかと問われたら俺にも分かんなくなってるから答えれやしない。でもなんかね、電車に乗りたい気分なんだ。誰も分からない知らない遠いとこまで、それで、


「仕方ねえな、行くぞ」
「行くってどこに。」
「分かんねえとこに。嫌かよ」


どうせなら銀河鉄道、みたいなのに乗りたい。もちろん1人は寂しいから、君とね。これはそう、あまりにも大仰な、恥ずかしい告白。


「嫌なわけ、ないじゃん」




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