最初で最後の

「主人には言わないで。」
この言葉が頭からこびりついて離れない。

才蔵はひたすら森の中を走った。
走り出してからかなり時間が経っていたが、頭の中には佐助の最期の言葉が永遠に繰り返されるだけである。体のいたるところから血が滲んでいたが、痛みにまで気がまわらない。才蔵の大きな手には自分たちを襲った裏切り者の首が握られていた。

「才蔵様!」
明け方の静かな城下町を走り抜ける。才蔵の顔と、手に持った首を見て、町人たちはその異常な様子に声を上げることしかできなかった。
町人の声など耳には入らず、ただ城下町を走り抜け、ただ主人の元へと急いだ。

自身の気持ちの変化を悟られまいと、主人の自室の襖の前に立ち、一呼吸おいた。いつもの襖をいつも同じ速度で開く。
「やっと戻ったか!」
額に大きな包帯を巻いた主人が心配そうな顔で振り返ると急に真顔に戻った。
才蔵は手に持った首を主人の幸村の前に放り投げると、
「この首は。」
幸村はよく知っている顔に少し驚いた顔をすると、
「才蔵。お前1人か。」
「あいつは逃げました。」
すぐに元の優しい顔に戻る。
「そうか。」
と一言小さな声で呟いた。
才蔵は佐助との偵察中の結果を淡々と話した。偵察中に自軍に裏切り者が出たこと、その戦闘の最中に佐助が逃げたこと。頭の中では佐助の最期の頼みが繰り返されていた。

才蔵が振り向いて部屋から出ようと襖に手をかけた瞬間
「お前は忍なのだから自由に生きれば良いのだ。」
幸村の優しい声に才蔵は眉間にシワを寄せる。
「俺は真田の忍です。」
才蔵は一言呟くと、パタンと襖を閉めた。

「才蔵。佐助。本当にすまない。」
襖越しに幸村の細い声を聞き、才蔵は初めて(この人を守って死のう)と誓ったのであった。




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