冬の庭

寒くて寝られない夜が減った。主人は優しいから寒いといえば、もっと暖かな布団を与えてくれるだろう。ただこの寒いはそういう寒さではない。
いつからこうなったのだろうか。誰かに抱きしめてもらわないと眠れない夜がある。真田幸村の忍びとして仕えてから何不自由なく生活ができている。ただ、七歳で忍びになってから孤独を感じることが多くなった。
任務で探りを入れるために必要とあれば体を差し出すことはあったが、年月が経つにつれ、それによって満足を得るようになっていった。それでしか満足できなくなる自分がいた。行為を求められる自分は愛されていると思うようになった。

「さ…け、佐助。」
低くて優しい声に佐助は目を覚ました。
冬の朝、布団の中の自分はほとんど裸である。なのに暖かい。目の前にいる黒髪の男才蔵はとっくに任務用の忍装束に身を包んで、かかとをつけてしゃがみこみ、心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「佐助が熟睡なんて珍しいな。いつもお前の方が早起きやのに。」
いつもの頬当てで少し声が聞こえづらい。
「そーだね。なんかとっても暖かくて最近よく寝れるんだ。」
佐助は眠い目をこすって伸びをした。
才蔵の自分にだけ向けられている愛情を感じるうちに寒くて寝られない夜が減った。
「はよ支度しいや」
才蔵は膝を押して立ち上がると、廊下側ではなく、庭側の障子から出ていった。

佐助は小さく微笑む。布団をさっさとたたむと、急いで忍装束に着替えた。そろそろ出ないと主人を待たせてしまう。佐助は先ほど才蔵が出ていった障子を開く。
上田には雪が積もっていた。雪は深くつもり、足跡一つついていない。空風が佐助の横を通り抜けていった。
「主人が待っとるで」
庭のすぐ脇には才蔵が立っていた。佐助が用意をしている間もずっと待っていたのだろう。
「佐助!佐助はいるか。この雪の中で咲く花を見つけた。なんという花か教えてくれないか?」
庭の向こうから主人の優しい声が聞こえてくる。才蔵を見るととても優しい目をしてうなづいた。
「今行きます。」
佐助は主人の声を目指して雪の中を駆けていった。

雪に押し付けられた佐助の足跡はしんしんと降る雪ですぐに消えていった。まるで幻を見ていたかのように雪は全てを消してしまう。
「佐助…?」
何故か才蔵の脳裏には佐助の儚く消えてしまいそうな笑顔が映った。

「主人おはようございます!」
佐助は冬の乾いた冷たい風を吸い込み、主人を目指し雪の中を走る。
慶長19年。佐助にとって最後の冬となるだろう。




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