夢に向かう君



「こんにちはー。」
土曜日のこの時間、伝えておいたらずだから、誰かはいるはずだ。
しかし返事はない。

「つー!陽介お兄ちゃん!わたし!」
……
陽介はいないようだ。
翼の擦りきれた靴は玄関に無造作においてあるので、翼はいるのだろう。

「つー。」
二階の翼の部屋、二回ノックして扉を開く。

やっぱりだ。
翼の広い背中がこちらを向いていた。
机の電気だけついている。

「つー」
ああ。やっぱり耳にはイヤホンがついている。

琴未はゆっくりと後ろから近づくと、一気にイヤホンを翼の耳から引き抜いた。
「うわっ!」

「つー。来たよ。
これ!はい。」
琴未はきょとんとしている翼の机の上にどんっと袋をおいた。

「こ…菊池か。」
袋の中身を覗きながら翼はふっと息をはいた。

「うん…。ジャガイモだよ。」
琴未の頭をモヤモヤしたものが通り抜ける。

高校から頑張って菊池って呼ぼうとしてるのは知ってる。
(わたしら昔みたいに名前がいいな。)

それにしても黒目は相変わらず小さくて目付きがわるい。
クラスメイトに怖いと言われるのはそのせいだろう。

「勉強?」
翼の机の上に散らばったノートを見つめわたしは問いかけた。
翼は少し悲しそうに微笑むと
「そうだよ。化学、」
と教科書を見せてくれた。

翼がこんな顔をして笑うのはまた兄の陽介に何か言われたのだろう。
今はたしか下宿先から帰ってきていたはず、陽介はなぜか翼には厳しくあたる。

陽介は医学生でとおくの大学に行っている。翼はバスケットもうまい陽介を自然とライバル視していた。
しかも、翼の昔からの将来の夢が医者なので知らないうちに医学部をめざし、かつ会うたびに嫌な態度をとってくる陽介をあまり良く思っていない。

「つー頑張ってるね。」
琴未はちいさく微笑んだ。
「大丈夫。陽介のことなんか気にしてないから。」
翼は琴未考えていることすべてを悟ったように、下から琴未の顔を覗きこんでニタッと綺麗な歯を見せて笑った。
本当にお互いをわかりすぎている。

「菊池〜お前も勉強しろよ。」
そのままニタニタ笑いながら椅子から降りてタンスの上のバスケットボールにてに取った。

琴未はむっとしながら翼の方に手を広げると、大きなバスケットボールがかなりの勢いで飛んでくる。
琴未はなんなくキャッチするなり翼のベッドに座った。
「わたしだって頑張ってるからいいの。」
そう言って、翼にボールを投げつける。

翼はキャッチしたボールを腕の上で転がしながら、
「日野や城戸に迷惑かけんなよ。前みたいに『写させて〜』って。」
と、懇願のポーズをした。
「なにそれわたしの真似?
似てないわ!」

その瞬間またボールがとんできたので、わたしはキャッチしてから、ベッドの上にボールをおいた。
「でもつー、つーも無理はしないでね。」

昔より遊ぶ回数は減った。
本当に自分勝手なのはわかっているけれど、もう少し遊んでほしいし、会ってほしい。
薫がいるのはわかっているけれど、今までの関係を保ってほしい。

(わたしはつーの特別な女の子でいたい。)


「琴未もな!」

そう。
ずるいのはそれ。
わたしの気持ちわかってるみたいに時々下の名前で呼ぶところ。

「うん…。」
顔が怖くて、声も低くて、デリカシーもない不器用さんだけど。
(わたし、やっぱりつーが好き。)



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