新たなスタート
※琴未目線
「うわぁ!やったあ。私たち両方受かってる。」
私は声を張り上げた。
今日はまだ少し肌寒い春の1日。
学校の入り口や脇道には桜の気が満開を迎えていて、私たちの気持ちをいっそう盛り上げている。
高校入学というスタート地点にやっと立つことができた。
私は正直自分のことに精一杯で、自分の受験番号を見つけただけで、大声で騒ぎながら隣にいる親友の日野薫に抱きつく。
「薫…?」
私は突然はっとして顔を上げた。
薫も受かっている筈なのに、薫は全く声をださない。
さっきから黙りだ。
(あっ。)
「薫。」
薫はぼろぼろと涙をこぼしているのだ。
「…」
私がただ呆然と見ていると、パチッと急に目があった。
私は薫がなぜ泣いているのかまったくわからない。
正直薫がこの高校に受かることなんて、薫を知っている人、誰もがわかっていただろう。
なのになぜ。
ガシッ
「うわっ!」
その時薫は急に私に抱きついてきた。
「よかったー!琴ちゃんが受かって…」
「なんだ私か。」
薫はさっきからずっと私が受かったことに感動していたようだ。
「また一緒だよー。わたし嬉しい。」
薫はぐずぐず泣き笑いしながら、私から離れた。
「これ。」
一応泣かせたのは私だから、薫にハンカチを差し出す。
薫はハンカチを受け取りながら目をパチパチさせると、
「琴ちゃーん!」
とまた抱きついてきた。
「ほんとに受かってよかったよ。
私、全然勉強出来なかったからさあ。」
薫の胸の中で静かに呟いた。
薫が心配していたのもわかる。
両親が事故で死んだとき、本当に私の精神状態は悪かった。
勉強なんて出来ず、学校にも行けず。
薫はその時、毎日わざわざ家庭教師のように勉強を教えに家に来てくれていたのだ。
「ありがとう。薫」
受かったのは薫のおかげ。
「よし!薫帰ろう!
私はおばあちゃんに言わなくちゃ!」
薫は笑って私から離れると、「あ、そうだ。」と目を丸くした。
「お母さんがそこまで迎えに来てくれてて、ちょっと出掛けるんだ。」
薫は嬉しそうにわらった。
「合格祝い?どこいくの?」
「携帯だよ!合格したから、そのお祝いに。」
そうか。薫が以前言っていたような気がする。
「買ったらアドレス教えてね。」
私は携帯は去年からおばあちゃんに「何かあったらいけないから。」と持たされた。
中学時代、そうお世話にならなかった携帯だが、これからは毎日お世話になるつもりだ。
(毎日、彼氏とメールしてやる!)
私は変わるときめたんだ。
いわゆる高校デビューの波に乗っちゃうつもりさ。
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