何泣き?


「えっ?」

真っ白い顔だったピエロは今では自らの血で顔を真っ赤に染めて、ゆっくりと後ろに倒れた。

祭は背後から響いた、低い声の主を振りかえる。
「だれ!」

祭の視線の先には双子よりも少し背の高い少年が拳銃を構えていた。

少年はパーマのかかった黒髪をしていて、ジャージ姿である。

「僕か?」
少年が祭に問いかけた瞬間、祭の隣にびしょびしょに濡れた小鳥が走ってきて、そのまま落ちていた包丁を拾い構えた。

「安心しろ。
僕は別にマフィアとかじゃない。
僕は竹内紅助。
警察だ。」
そういうと、少年は拳銃をジャージの後ろにしまった。

小鳥は少年を疑いの目で見つめてから
「どうみても警察には見えないよね。」
と、祭に訴える
「ジャージだし。どうみてもあたしらとあんまし変わんないしね。」
祭もそれに同意して、再び少年を見つめた。

「疑ってるのか。」
そう言うと、少年はポケットから手帳を取り出し、2人によく見えるように高くあげた。

「うわっ。本物?」
それは仕事をするにあたって今まで何回か見てきた警察手帳そのものだった。

「僕は帰る。」
そう後ろを向いた時、
「ちょっと待ってよ!
紅助!」
なぜか祭はいきなり呼びすてで少年を呼んだ。
少年は一度振りかえって眉をよせて嫌そうな顔をしたあと、そのまま前を向いて歩いていった。


「なんで警察なんかが。」
祭が眉間にシワをよせながら呟くと
「たしか、この前麗空がいってたよ。"警察に援助を要請された"って。
だからあの人が来てもおかしくはないよね。」
「そうか!」
祭は納得して笑うと、ゆっくりと立ち上がった。

「そうだ。小鳥、救急車。」
祭は男を見てから小鳥に笑かけた。
「私だったら殺してた。」
小鳥は目を伏せてから、祭に微笑みかける。
「わかった。祭は優しいね。」

祭はそのまま男とピエロの方へと歩み寄る。


男は目から涙を大量にこぼしながら、祭を見つめていた。
しかし、祭は仰向けに倒れているピエロの前に腰をおろす。

ピエロの頭には見事に銃弾がめり込んでいて、いまだに大量に血が吹き出ている。

「あっ。」
ピエロのナース服のポケットに白いものが入っている。
祭はゆっくりとポケットから抜き出した。
「紙。」

祭がその綺麗に4つに畳まれた紙を開くと、上手とは言えない色鉛筆で絵が描かれてあった。


そこには黒い猫とピエロがなぜか泣きながら手を繋いで立っている。

祭はそれを見た瞬間、急いで紙を閉じてまたピエロのポケットにいれた。

ピエロがいった
『信じていた。』

絵の2人は大好きだった者に裏切られた。
悲しくて泣いているのか、それとも怒りで泣いているのかはわからない。
それでも信じていた。


その時

「祭ー!」

遠くから、響の声が小さく聞こえる。
祭が振り向くと、奏と響がこちらに向かって走ってきていた。

「2人とも無事みたいだな。
よかった。」

奏が笑いながら、小鳥と祭を見る、
「あれ?祭。どうした?」
響が祭の顔を覗き込んだ。
「あっ。あたし泣いてるね〜。
大丈夫大丈夫。
帰ろうか。」
祭は響に微笑みかけると、ゆっくりと立ち上がり足を進める。


夜の10時30分。
4人は低く唸る海に背を向けて歩き出した。


02.mad clown

終わり









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