白と赤
「小鳥!」
ピエロの鋭い蹴りは小鳥の脇腹に思い切り当たる。
そして、その威力を示すように小鳥は吹き飛ばされ、
バチャンッ
そのまま海まで小鳥の軽い体は吹き飛ばされた。
祭は一瞬自分も飛び込もうか迷ったが、もしここで小鳥を助けてしまうと、少し後ろの男性が餌食になってしまう。
そう考え、ピエロに銃を構えた。
「ほお。
でも当たらないよ。」
ピエロは口角をあげて笑う。
本当に気味の悪い顔をしている。
ピエロは包丁を握りしめ、一歩、また一歩と近づいてくる。
その時、バシャッと、小鳥が海から顔を出した。
祭は胸を撫で下ろす。
「ねえ。」
声をあげたのはピエロだった。
祭は銃を構えながら、引き金にかけた指の力を緩める。
「その男を殺させてくれたら。
死んであげてもいいよ。」
急に何を言い出すのか。
頭がおかしいのか。
祭はたしかな恐怖を感じた。
「はあ?」
理由が聞きたくて、祭は返事を求める。
「私はこうやって他人を殺している。
私に他人を裁く権利なんかないわ。
結局、私はこの罪を償わないといけない。
私は元々死ぬべき方法で死ぬ。」
ピエロのこの言葉に祭の体は凍りついた。
自分たちの"復讐"。
それが生み出す負の連鎖。
自分の未来を見ているようだった。
「死ぬべき。」
祭はポツリと言葉をもらす。
先ほどのピエロの気がかりな言葉だ。
ピエロはただじっと祭の方を見つめている。
「嫌いだったから。」
祭はピエロの言葉に、銃を構えながら顔をあげた。
「私は今から1年前、叔父に引き取られて、叔父が私を『嫌いだった』から、体に火をつけられた。
本来なら死ぬはずだった。いいえ。きっと神原詩織はあの時死んだんだ。
でもね。なぜか炎が叔父に絡み付いて。私は全身に火傷をおったけど命は助かった。
暑かった。痛かった。」
その瞬間、ピエロの目の色が変わった気がした。
「嫌いだったら殺すの?
殺すならもっと楽に殺して欲しかった。
お前には相手の痛みがわかってないんだ。
同じように、苦痛を味わえ!」
ピエロは男に叫んだ。
そして包丁を構えながら男に猛進する。
「やめろ!」
祭は咄嗟にピエロの前に立ちはだかった。
「邪魔だー!
この気持ちをあんたが止める権利はない!」
祭は引き金を引いた。
パンッ
しかし、それよりも速くピエロは包丁を投げていた。
包丁は見事に弾を弾き飛ばし、祭の銃に当たる。
銃は音をたてて空を舞った。
「私は叔父を信じていた!
お前が殺したあの猫もお前を信じていた!」
「ひいっ!」
まさに俊足で向かってくるピエロに男は小さな声をあげる。
祭も後を追う。
「私は!」
そう叫んで包丁を振り上げた瞬間。
パンッ
と乾いた音が静かに響いた。
「叔父さん。あの日あんなに優しくしてくれたのに。」
祭には、本来の白い顔を真っ赤に染めたピエロの悲しそうな顔が目に入った。
そう。弾は頭を貫いたのだ。
そして
「せめて楽に死んでくれ。」
祭の背後から、聞き覚えのない低い声が聞こえた。
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