喧嘩と
夜10時
綾瀬家の部屋の電気は全て消えていた。
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>被害者の家の前には誰も来ないよ。響
>こっちも。祭
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海沿い。
ここは漁港であるために、夜中ではほとんど全ての漁船が戻ってきていた。
上下ジャージの綾瀬祭は赤いスライドの携帯を閉じてポケットにしまう。
「それにしても寒いな。」
祭は腕を抱えるポーズをして、海を見つめる。
海風が予想以上に冷たくて、4月の中途半端な気温の今ではこたえた。
「寒い…。」
祭の隣には、髪をツインテールにしたかわいらしい少女が、その容姿に似合わず右手でハンドガンをくるくる回している。
もし、今日犯行が起こるのならこの海沿いを通ってもいい時間だろう。
正直言って、風呂場に水がなかったら殺せないし、海での方が犯人にとっても犯行はしやすい筈だ。
「小鳥。今日は何持ってきたの?」
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響が今朝来たぼろぼろのアパート。
夜である今、正直お化けが出てもおかしくないような気味悪さだった。
アパートの前には街灯は一本しかなく、しかもそれは消えかけている。
被害者予定の男の家には明かりは灯っていなかった。
響は隣にいる奏をチラリと見ると、奏は困ったような顔をして、
「ピエロ来ないな。」
と微笑む。
麗空の予想が外れることは珍しい。
だから、もしここに来ないのなら祭と小鳥のところに来るのだと思う。
響は奏の憂鬱な顔を見て、ため息をついた。
「今日は諦めろ。
お前のそういうところ、あんまり良くないと思うんだ。」
響の言葉に奏は顔をあげて笑った。
「大丈夫。そんなこと考えてないから。」
いつもこのように言うが、3人姉弟のなかで一番落ち着いているのが奏。
しかし、なぜか一番好戦的なのも奏なのだ。
ケンカを売られれば買う。
「ケンカと"これ"は違うんだから。」
ケンカと仕事を同じように見ていないか?
「大丈夫大丈夫!
ありがとう。」
奏は顔の前で手を振りながら笑った。
その時。
「響!」
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>来た。
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祭たちだ。
ピエロは海岸で男を溺死させる気なのだろう。
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