long『サンダルは濡れている


 夜、布団の中で、通り過ぎる飛行機の音を聞いたのをきっかけに、衝動的に書き上げました。初めに設定した期間が二週間と長かったので、ノートに虎太郎のスケジュール帳を作って、細かい予定や事柄を書き込みながら進めていました。普段わたしが短編ばかり書いている理由には、長編を書くと途中で色々と設定を忘れてしまうため、矛盾が生じやすいというのもあります。

▼島と方言
 この話に出てくる島にはモデルがあります。わたしが去年の夏に訪れた、直島というところです。作品のイメージとして置いている写真も、そこで撮ったものです。実際の海は山で囲まれており、水平線からの日の出は見られません。少し裏に入ると、年期の入った建物や神社があり、静かで、いい島でした。双子や羽多野が喋っている方言は伊予弁です。

▼人物の容姿と設定
 この中に出てくる人物は、羽多野くん以外の容姿イメージが割とはっきりしています。虎太郎は他にも「光縁」という名前の候補がありました。「こうえん」と読みますが、双子が呼びづらいので没になりました。いつか別の話で出てくるかもしれません。ほへとの、聴けもしない中古のレコードを買うくせは、わたしのものです。安くて素敵なものを見つけると、つい買ってしまいます。

▼羽多野くん
 彼は確実にいろはに惚れています。笑ったことのないいろはの笑顔が見たくてしょうがないです。12項で、いろはに扉を閉められた羽多野くんが言いかけた「そしたら、おまえ」の続きの言葉は、「笑うんか」という内容のことです。素直というかバカ正直というか、無神経な言葉でいろはの気に障ることをたくさん言いますが、本人に悪気はありません。嫌みを言っているつもりもありません。

▼伝えたいこと
 おおざっぱに言えば、変わることを恐れて縮こまってきた双子が、変化を知り、変わろうとする一歩を踏み出す話です。それとは別に、伝えたかったことがもうひとつあります。「綺麗なものだけが愛しいわけじゃない」という虎太郎のセリフです。
 わたしが生きていて、今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前でなかったことがたくさんあります。固定概念に捕らわれず、常にさまざまな可能性を考えていられたらなあと思って、生まれた言葉です。

▼いろはにほへと
 双子は、昔書いていた『いろはにほへと』という短編が元になっています。この段階ではふたりとも男の子でした。

▼曲
 作中で虎太郎が聞いていた曲は実在します。「波の音みたいな」というのは単なるイメージですが、わたしがジャケットに惚れて買った、Jazzdeliciousというアルバムの中に入っていたものです。
One (Is The Loneliest Number)/The Tao Of Groove Feat. Leslie King