short『星よりも遠い

 姉の言うとおり、弟は本当に無神経でマイペースな人です。クリスマスの夜に「二人で飲みに行こう」と言うのは、斉藤さんなりの必死の告白でした。しかし二十五日を特別と思わない弟が普段と同じように答えてしまったため、斉藤さんは振られたと思っているかもしれません。実際には弟は、自分にないものを持つ斉藤さんのことを、人として気に入っています。

 姉と弟は二人とも大学生で、上京して二人暮らしをしています。姉は恋多き女性で、毎回最高の彼だと思って付き合うのですが、なぜか長くは続きません。そのたびに本気で落ち込み、それを慰めるのは弟の役目です。割と淡白な姉は、一晩もたてばすっかり回復してしまいます。弟は、自分と全く異なる姉を心底不思議に思いながらも、憎めず、むしろ好いています。

 タイトルの「星よりも遠い」はアラブのことわざで、極端に遠く、手が届かないようなもののことを言います。このお話の中では、斉藤さんにとっての弟であり、弟にとっての姉であり、姉にとっての素敵な恋人なのでした。