long『魚じゃない』
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 この作品は、わたしが自転車で一時間かけて通っていた山の高校を卒業するころに書いたものです。わたしにとっては初めて書いた、少し長めの話です。
 高校の近くにはきれいな川があり、夏はよく、学校帰りなどに友人と泳ぎに行きました。家の近くにも川はありましたが、とても泳げるような川ではありませんでした。

▼鳥乃と点
 長い黒髪に白い肌、そしてセーラー服というのは単純にわたしの好みです。不器用で正直で、どこか屈折しながらも、まっすぐな女の子になるように。イメージカラーはきっぱりと赤・白・黒の三色です。鳥乃といないときの点は、ヘンに器用な嘘つきで、自分の感情を押し殺し、周囲におかしく思われないこと、迷惑をかけないことばかりを考えていて、そのことが彼を苦しめます。正直すぎるくらいの鳥乃と、嘘つきな点は、互いに大きな影響を受け合うと思います。
 他人の抱える悩みや痛みが、ささいなものに見えたとしても、本人にとってはとても重要で、時には生死にすら関係する問題だったりします。彼らはただでさえ幼く、さらに閉じこもることによって周りより経験が少ない分、分からないことだらけの中を必死に生きています。

▼鳥乃の弱さ
 自分で「わたしの弱さ」と言っていますが、彼女には自傷癖があります。どうしようもない不安や衝動に駆られたとき、彼女はほぼ無意識に自分を傷つけますが、後には決まって後悔をします。それでもやめることはできず、不安も解消されないまま、後悔ばかりが彼女の中に蓄積していきます。

 鳥乃の悩みにもうひとつ、『忘れてしまう』ことがあります。忘れたいことを選んで忘れられるわけではありません。むしろ嬉しいことを忘れてしまい、いやな経験ばかりが積もったり、忘れたとしても、不安や不快な感情だけが残ったりします。そういうときに彼女は押しつぶされそうになって、吐き出すために叫びたくなるのです。

▼恐怖と衝動
 点にとって鳥乃の闇は、彼のものより深く、暗く見えます。そのことに点は途中で気付き、鳥乃に対しては徐々に怯えの感情が強くなっていきます。理解しがたい鳥乃の行動に、本気で恐怖を感じるときもあります。実は彼は、鳥乃に歌ってもらったのを最後に、関係を絶つことすら考えていました。それでも、川の中にたたずむ鳥乃の姿を見た瞬間、全ては吹き飛び、代わりに強い思いが芽生えました。彼女に生きていてほしい。自分も生きていたい。ずっと一緒にいたいそんな衝動で、点は川に飛び込み、鳥乃に駆け寄りました。

 お互いに、恋をしているわけではありません。ただ一緒にいて、影響し合って、成長していきたいという気持ちです。そばにいられたらいいのです。

▼不安
 普段、なんでもないことを重大に考えすぎていたりして、実際に触れると「なーんだ」と安心することがあります。ただでさえ、未経験のことには過度に不安を抱きがちなので、経験の少ない鳥乃や点の不安は特に強いものです。傷付くことに怯え、恐怖からできるだけ離れて生きようとします。二人の場合は特に、学校や人との触れ合いを嫌います。点は分かっていて、鳥乃は無意識にそうしています。彼らが成長する上で、「そんなもんか」や「こんなもんか」をもっとたくさん経験して、平気が増えて、肩の力を抜いて、笑って過ごせるようになれたら、わたしも幸せです。