その一言に彼女が固まった。
それはもうピッシリと。だが、マスクの下の口だけはもそもそ動いているから、根っからの食いしん坊だ。…たとえ俺を凝視していても。
あ、お代わりを求められた。黙って二つ目の干し柿を渡せば、俺を凝視したまま瞳が輝く。
そして、やっと、
『あなたに可愛いなんて言われたくない』
「えっ?」
『人気だって自分で知ってるのよ。昔だけど、パトカーとお巡りさんに大人気だったのよ』
「いや、人気の意味が違う。…てか、その頃のお巡りさん達勇敢だよね。仕事と言っても都市伝説が相手って俺は無理こわい」
『あなたみたいなポメラニアンじゃなくて、もっと格好いい人に可愛いって言われたい』
「またポメラニアン…」
なんで皆して俺をポメラニアンって言うんだろう。身長は確かに成長途中だが、だからってポメラニアンはない。悲しくなった俺は新しい干し柿を取り出して食べた。美味しい。
道端で口裂け女と干し柿を食べる体験をするなんて夢にも思わなかったが、それ以上にポメラニアンと言われるとも思わなかった。
なのに、悲劇はまだ続く。
『例えば、あんな人』
格好いい人、と指差した先にいたのは、
「…真木」
心にさらなるダメージがのしかかる。
真木の容姿とスタイルの完璧さは知っている。だが、外見を裏切って中身がめちゃくちゃクソだとも知っている。性格では俺が圧勝なのに、女の子達は皆外見で判断するから悔しい。
手に持った干し柿のパックを握りすぎて、メリィッ、って音がするほど悔しい。
でも、干し柿おいしい。
そんな俺の心も知らないで、真木は近くに来たかと思うとごく自然に、遠慮なんか知らないと言うように干し柿に手を伸ばす。いや、真木の金で買った干し柿だが絶対に食わせたくない。
ひょいっ、とパックを上に避難させたが、180cmは余裕である真木は馬鹿を見るような目で俺を見た後、難なく干し柿を略奪した。
しかも、干し柿なのに格好いい。
同じTシャツやデニムでも着る人が違えば効果も違ってくるが、まさか同じ現象が干し柿でも起こるとは思わなかった。たかが干し柿を食べてるくせに、絵面が完全にCMっぽい。
で、使い古された一言を。
「お姉さん、綺麗だね。今、暇?」
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座右の銘:リア充爆発しろ。
現世への未練:イケメン滅ぼす。