生意気な子供だ、とは思った。
いや、長く生きた私から見れば子供なだけで、彼の実際の年齢は20に近いか未満か。
淡いハニーブラウンの綺麗な瞳。切れ長の目は印象を鋭くするが、伏せ気味の長い睫毛が瞳に影を落として繊細だ。俺が降りてきたのを見て、彼は満足げに口角を吊り上げた。
黒髪をかき上げる、男らしく長い指。
「大人しくそこから見てろ」
尊大な口ぶりとは裏腹に滑りは繊細だった。
ステップの一つ一つでは指先にまで気を配り、ジャンプは失敗がない。それでも着地をする度に嬉しそうに緩む口元が、とても可愛い。
とてつもない疾走感、スピード感。鎖に囚われない自由な鳥は時折私の方に視線を流しては、クスッと小さく笑っていた。その眼差しの一つにすら胸が高ぶって、鼓動が加速していく。
なめらかな動き。しなやかな手足。音楽はないのに、彼はひどく美しかった。
形のいい唇を挑発的に微笑ませたまま、彼が滑りよってくる。そして、私の目の前で鮮やかな四回転ジャンプを決めてくれやがった。
どうだ、と言わんばかりの瞳。
こちらに伸ばされたしなやかな腕。
(あぁ、私も行きたいよ…!)
だが、氷上との間には邪魔な仕切りがあって、伸ばした私の手が彼の手を掴むことなく、彼は微笑んだまま離れていってしまった。
むっ、と拗ねればまだ滑りの途中だというのに彼が止まる。まぁ、音楽も何もないのだから滑るも滑らないも彼の意志なのだが。
私の表情を見て、彼が笑った。
「あっはは!いいじゃねぇか、その悔しそうな顔…!さっきよりはかなりマシになったぜ?」
歳は20前後だと思った。
だが、屈託のないその笑顔から、もしかしたら私が予想しているよりも若いかもしれない。
彼は私に滑りよってくる。私達の間にあるのは胸の位置にも満たない低い仕切り一つだけで、なのに、たまらなく邪魔だと思う。彼は仕切りに腕を乗せて、淡い瞳で私を見上げた。
ハニーブラウンの色が穏やかで優しい。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。