HOPEACE番外編 | ナノ
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3.

生意気な子供だ、とは思った。

いや、長く生きた私から見れば子供なだけで、彼の実際の年齢は20に近いか未満か。

淡いハニーブラウンの綺麗な瞳。切れ長の目は印象を鋭くするが、伏せ気味の長い睫毛が瞳に影を落として繊細だ。俺が降りてきたのを見て、彼は満足げに口角を吊り上げた。

黒髪をかき上げる、男らしく長い指。

「大人しくそこから見てろ」

尊大な口ぶりとは裏腹に滑りは繊細だった。

ステップの一つ一つでは指先にまで気を配り、ジャンプは失敗がない。それでも着地をする度に嬉しそうに緩む口元が、とても可愛い。

とてつもない疾走感、スピード感。鎖に囚われない自由な鳥は時折私の方に視線を流しては、クスッと小さく笑っていた。その眼差しの一つにすら胸が高ぶって、鼓動が加速していく。

なめらかな動き。しなやかな手足。音楽はないのに、彼はひどく美しかった。

形のいい唇を挑発的に微笑ませたまま、彼が滑りよってくる。そして、私の目の前で鮮やかな四回転ジャンプを決めてくれやがった。

どうだ、と言わんばかりの瞳。

こちらに伸ばされたしなやかな腕。

(あぁ、私も行きたいよ…!)

だが、氷上との間には邪魔な仕切りがあって、伸ばした私の手が彼の手を掴むことなく、彼は微笑んだまま離れていってしまった。

むっ、と拗ねればまだ滑りの途中だというのに彼が止まる。まぁ、音楽も何もないのだから滑るも滑らないも彼の意志なのだが。

私の表情を見て、彼が笑った。

「あっはは!いいじゃねぇか、その悔しそうな顔…!さっきよりはかなりマシになったぜ?」

歳は20前後だと思った。

だが、屈託のないその笑顔から、もしかしたら私が予想しているよりも若いかもしれない。

彼は私に滑りよってくる。私達の間にあるのは胸の位置にも満たない低い仕切り一つだけで、なのに、たまらなく邪魔だと思う。彼は仕切りに腕を乗せて、淡い瞳で私を見上げた。

ハニーブラウンの色が穏やかで優しい。

[ 10/14 ]
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。