ぽた、と涙が頬を伝った。
だが、拭う気はなくて頬っておけば、それは止まるどころか徐々に勢いを増してくる。
その途端、足音が聞こえて私は慌てて顔を俯かせた。この時、私は冷静ではなかった。だって冷静になっていれば、レイロがノックの一つもなく部屋に入ってくることはない分かったのに。
「私は下がれと言ったんだが」
いつもより少し低い声。
だが、返ってきたのはレイロの声ではなく、私が心の底で待ち望んだ声だった。
「君の命令を聞く義理はないさ」
「っ、」
懐かしい彼の、…ドラゴンの声。
たった一年と少しなのにものすごく懐かしく聞こえて、涙を流していることも忘れて勢いよく振り返った。弾かれたように急に振り向いた私に、ドラゴンは苦笑いを浮かべた。
最後に見た日のまま。ハーフアップの髪は夜だというのに鮮やかで、黄金色の瞳は爛々と煌めいて私を放さない。私が目を見開かせた途端、新たな涙がまた一粒、頬を伝い落ちた。
だが、今すぐにでも駆け寄って抱き締めたい心とは裏腹に、絞り出した声は硬い。
「何をしに来た?」
「おや、歓迎してくれないのかい?」
「…私を笑いに来たか?」
違う。こんなことが言いたいんじゃない。
だが、ドラゴンの前でつまらない意地を張る癖は治らなくて、ぽろぽろと涙は流れ落ちるのに愛しい人にすがろうとはしない。
もし、ここで彼を引き留めたら。
もし、私が思いを言葉にできれば。
もう一度、という奇跡はありえただろうか。
だが、失うことに怯えきった臆病な私は、自分から手を伸ばすそれだけの勇気も出せず、ただ取り繕うことで防壁を築くだけだった。
そんな私の問いかけに、彼だって本心じゃないと分かりきっているだろうに、思案するように一瞬だけ口を閉じては私と真逆の軽い口調で言葉を返した。私の予想を裏切る言葉を。
「…何をしに来た、か」
そして、煌めく鋭利な瞳が私を捉える。
「僕は君をさらいに来たのさ、カルナダ」
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孤独が怖い、と君が怯えるのなら、
私は君と最期まで寄り添うと誓おう。