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9.


「それは心配しすぎだ、皓。お前から見れば俺はまだひよっこかもしれねぇが、俺だってもう一流だ。それはお前が一番分かってんだろ?」

「…そうだが、」

怖いんだ。慧を失うことが。

ターゲットを相手に緊張を感じたことはあっても、恐怖が生まれたのは久々だった。

そして、俺自身、誰かとペアで依頼を遂行するのも伊瀬以来だ。TCCEの時は絶対に危険はないと確証できたが、今は違う。たった一つのミスが逃げられない命取りとなってしまうのだ。

伊瀬と慧。形こそ違うものの二人とも大切な人で、伊瀬が死んだあの日が脳裏にちらついて、たまらず恐怖に指先が震えた。

「皓、何を恐れてる?」

優しい声で慧が聞く。

それには答えられなかった。

お前が死んでしまうのが怖い、と素直に言ってしまったら慧を信用していないようで、傷付けると思った。だが、慧の瞳を見ることができなくて、ついに俺の視線はベッドに落ちた。

(合格させなければよかった…)

あの時、俺が合格にしなかったら、慧はこんな危険な依頼にあたることもなかったのに。

だが、こうも思う。たとえ不合格にしたところで、妙に負けず嫌いなこいつはいずれまた受験者に選ばれて、合格して、一流になって、ついには俺の隣に立っていただろう、と。

こう評価するのは恋人への贔屓じゃない。

俺は心から慧の実力を信用していた。だが、加賀美のあの瞳を思い出すと途端に怖くなる。

俯いて黙ってしまった俺の頭に、ぽん、と何かが触れる。視線を上げればそれは慧の手で、安心させるように微笑んでは頭を撫でた。

「怖いことは何も起こらねぇよ」

どこまでも優しく頭を撫でてくれる。

不思議と、慧がそう言うと本当に悪いことは何も起こらない気がして、落ち着いてくる。

頭の上の手に自分の手を重ねて前に体を倒せば、慧が受け止めてくれる。温かい体に抱き締められて、首筋に擦り寄って、大好きな香りを肺いっぱいに吸い込めば安心してきた。

無事に終わる、と。

だが、慧の温もりに安心しきった俺には、慧が小さく呟いた言葉が聞こえなかった。

「胸糞悪い匂い残して、こんなに怯えさせて、…礼はきっちりしてやるよ」

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。