「清宮様のお連れ様でしょうか。私(わたくし)、コンシェルジュリーダーの播磨と申します。ホテル内は暖房が効いておりますので、よろしければコートをお預かり致します」
「申し遅れました。慧様の執事をしております朝倉と申します。…ご厚意はありがたいのですが、播磨様にご迷惑をおかけすることはできません。慧様のコートも私が、」
「ご迷惑など滅相もございません。お客様にお仕えすることが我らの使命ですので、」
「…ですが、」
たったこれだけの会話で直感した。
播磨というこの男、裏側を知っている。
コンシェルジュリーダーという立場からだけでもホテルの裏の顔を知っていると推測できるが、それだけでなく、雰囲気が油断ならない。にこやかな表情をしているのに、話をしているだけで無意識に警戒してしまうような男だ。
慧の立場からして早かれ遅かれ裏側を知る人間と接触するとは思っていたが、思っていたよりも随分と早くて驚いた。
だが、好都合だ。
「朝倉、播磨は仕事なんだ。甘えろ」
「…それでは、心苦しいのですが、」
「いえ、喜んでお預かり致します、朝倉様」
播磨にコートを手渡した瞬間、ふわりとほのかに優しい香水の香りがした。ブランド物の高い香水。だが、その香りは品を出すとうよりも何かを隠すためにつけられたものだった。
香水に紛れた、…煙草の匂い。
肌や歯からして播磨は煙草を吸わない。コンシェルジュといっても、分煙を徹底しているホテルで煙草の匂いが染みつくことも少ない。
しかも、煙草は一つの銘柄ではなく、国内外の様々な銘柄が混じっている。共通するのは安いものじゃないということ。
分煙を徹底しているホテルで煙草の匂いが充満している場所、さらに、高い煙草を買える人物ばかりが集まる場所は一つしかない。
(播磨はカジノに出入りしている)
[ 13/179 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。