「何してんの?」
任務終了後、とっくに解散し別れた彼女が川辺に佇んでいた。
昼間の夏の始めのからりとした暑さには辟易した。
陽が落ちた今では心地良い風が水に冷やされ、涼しさも感じる。
「笑わない?」
空を見上げていた彼女が、朗らかに振り返る。
特におかしな点もなく、柔らかな雰囲気の彼女につられてカカシも笑みを返す。
「笑わないよ。」
カカシが促すと、サクラは笑みを深める。
「年に一度の逢瀬を待ってるの」
【仰月待−月人壮士−】
意味深な言葉に、怪訝そうにサクラを覗き込む。
「七夕よ。織り姫はね、上弦の月のふねに乗って会いに来る彦星を待ってるの」
「旧暦か」
「そう。――だって、せっかくの逢瀬なのに、最近は雨ばっかり。だったら旧暦にして、何の憂いもなく逢いたいじゃない」
「そーゆうもん?」
「好きな男の人だもの。余計なことは煩わしいだけだわ」
カカシもサクラに倣って暮れたばかりの夜空を見上げる。
藍に染められた空の端には、まだ薄く朱が混じり、間もなく恋人たちの時間が訪れることを示していた。
「天の川のほとりでね、銀の糸を紡ぎながら、願うように、祈るように、錦を織るの。
ふねの型をした上弦の月に乗って、彦星が迎えに来るのを今か今かと待ってるのよ」
「サクラは、誰を待ってたの?」
カカシの問いに、サクラはふ、と嘆息する。
「誰も待ってないの。でも、カカシ先生が来たわ」
ころりと寝転がったサクラがカカシを見上げる。
何となく楽しそうな彼女に、カカシも気分が浮き立つ。
「――じゃあ、これからデートでもする?」
カカシが差し延べた手を見つめ逡巡するも、その手を重ねる。
「よろこんで」
きっとまた あの人に会えるから
きっと 月の舟が迎えに来るから
七夕伝説より
image by KAGAYA『織り姫』
豊前國娘子大宅女
柿本人麻呂
月人壮士が来るのを月を仰ぎ待つ
20090715/h21-24