「国が違えば世界も変わるね」


仰向けた首もそのままに呟いた。

今、オレはヨーロッパの都市に来ている。
連れは守護者兼側近の獄寺くん。

直情型だけど、場所がスラムっぽいだとかで、今回のオハナシに関してオレが出る付き添いとしては一番馴染むだろうなって。
だから格好も、お互いスーツじゃない。

「各ヨーロッパの街並を融合させたみたいッスね。――あ、ここが待ち合わせの店です」

獄寺くんが示したのは、街角のよくあるビストロ。

「Buon Viaggio"ボン・ビアッジョ"
イタリアンっぽいのって、こっちに合わせてくれたのかな」

「女性のオーナーっぽいですね」

店に入るか悩んでる風を装って、広い窓から見える店内を物色する。
カウンターの中に女性が一人、二人の男が女性を中心に動いて‥‥もう一人、キッチンにいる。

客は、カウンターに男が離れて二人。
テーブル席にもう一人。

「オレ達んトコと雰囲気似てるな」

顔馴染みなのか、一人の時間を過ごしているようには見えない。
同じ空間で各々好きに過ごしてる様子が、オレ達の執務室での様子に被った。

「いかがですか?」

「うん、悪くないよ。」

「では、」

獄寺くんが開けてくれたドアに取り付けられているベルが、軽やかに響く。
その音に顔を上げた30代くらいの、結構美人な女性。
扉を開けた時、故郷と呼べるほど馴染んだにんにくの香りとカッフェの香りとが相俟った匂いに、オレは相好を崩した。

「いらっしゃーい、空いてるとこ座って。何にする?」

快活なトーンはいかにも接客慣れしていて、オレ達のような裏側と関係しているとは思えない。

「カフェラッテにシナモンを少し入れて欲しいな。獄寺くんは?」

「オレもカフェラッテにします。エスプレッソ多めで」

「おなかは? 空いてる?」

女性のその言葉に、ちょっと笑ってしまう。

「オレ、ちょっと食べたい」

別に食べるのは構わないんだけど、いちお、コレ合図になっててね。
自然な流れとしては最良なんだけど、いっつも言う時、なんか笑っちゃうんだ。

「――『ボンゴレ』で」


「オッケイ、ちょっと待っててね」

‥‥‥あっれ。

ちょっと拍子抜けぇー?

おネーサン、なんもリアクションしてくんなかったんだけど‥‥
今の、合言葉なんだけど‥‥‥

空振った感に、獄寺くんと目の奥だけ見合わす。

作戦変更かと頭を巡らすと、視界が陰った。
店員らしからぬピリッとした気配に、テーブルの陰で獄寺くんが懐に手を忍ばす。

『絶対に』外からの襲撃や店内でオイタしちゃうコはいないってことだったけど‥‥‥‥

「ハイネ・ラムシュタイナー」

呟きと共に、注文したカフェラッテが置かれる。

陰を振り返ると、彼は既にハンズアップして戦意がないことを現してた。

首元が詰まったジャケットに、細身のパンツ、ゴツいブーツ。
ジャラジャラつけた一点ものっぽいアクセサリーは、獄寺くんと趣味が合いそうだ。

白髪の彼は、オレを見て紅い瞳を僅かにしかめた。

「オレは綱吉。」

「獄寺隼人だ」

微かに目を眇たのが気に入らないらしく、獄寺くんの声音は固い。
――まったく‥‥‥オハナシ合いの時に感情を出すなっての。

「面倒臭いのは好きじゃないんだ。最初っからド真ん中、いい?」

「喜んで」

面倒臭そうなのが彼のスタイルだと、何となく解ってしまった。
だってホラ、目の前にいる人。

口ではなんだかんだ言うけど、やるこたやるだろ?


オレはにっこりと笑みを浮かべて、オレらの間の席を勧めた。





There is the fire in the cigarette shop.
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