5月の晴れ渡った空の下、応接室の窓の外ではスタートの空砲の音や声援、BGM等の喧騒に溢れていた。
汗ばむ程ではないが、開け放している窓から入る緩い風が心地良い爽やかさを感じさせる。

そんな過ごし易い陽気だというのに、室内では沢田綱吉が恐怖の風紀委員長、雲雀恭弥にトンファーを突き付けられていた。

雲雀恭弥の目は切れ長で鋭く、見つめられているだけで震え上がりそうである。
怜悧なまなこに追い詰められながらも、綱吉は平伏しそうな自分と必死に抵抗していた。

「嫌です絶対ムリ! 皆ヒきますって!!」

纏められたカーテンに縋り付き、半ば泣きながら訴える。

並中では本日体育祭が行われており、100m走、借り物競走、障害物競走と、出る競技出る競技、見事全てビリになった綱吉は、何故か同チームの雲雀に自分のテリトリーである応接室へと放送で呼び出された。
この後控える体育祭で一番盛り上がる、色別リレーの前に予定されているのは応援合戦。
その応援合戦に出ろ、というのだ。

「なにも女装してるワケじゃないでしょ。君はこういう所でしか貢献できないんだから観念しなよ。いつまでもグダグダ言ってると、咬み殺すよ」

攻撃の予備体勢を取った雲雀に「ヒィッ」と小さく悲鳴を上げた綱吉は、痛いのは御免だとばかりに回れ右をして応接室から飛び出して行く。
応接室と普段使っている昇降口への渡り廊下を、競技の時よりも本気で駆け抜けていると、視界に入らなかった陰に人がいる。
気付くのが遅くなり、急には止まれない綱吉は当然避けることが出来ず、見事にその人影に突っ込んでしまった。

派手にひっくり返り、衝撃に耐えていると



―――悪寒が、走る。



「クフフ、熱烈な歓迎ですね。そんなに僕に‥‥」

眉目秀麗、神出鬼没で奇抜な髪型の彼、六道骸は、自分の腕に飛び込んできた人物の姿を見て言葉を詰まらせ、固まった。

「ほらもー! やっぱダメだよ、この格好!!」

相手の反応に、己の今の姿はそんなにも厭わしいものなのかと綱吉が半ば自棄気味に上げた声に、正気を取り戻した骸がひっくり返った綱吉を立ち上がらせると、これでもかとばかりに抱き締める。
むしろ絞まっている。

「ぅげ…苦し‥‥離、せって…‥骸!!」

ぎっちぎちと遠慮なく絞められ、肺を絞め潰されそうな責め苦に耐えられず、綱吉は思い切り相手の足を踏み付ける。

「〜〜〜〜っっ、綱吉くん‥‥少しは加減ってものを‥‥。――コレ、下はどうなってるんです?」

綱吉に足の先を踏み潰された骸は、しゃがみ込んで足を押さえつつ悶絶するも、倒錯的な格好の綱吉の服の裾をぴらりとめくった。
反射的に足元にあった骸の顔面に向かって、綱吉は容赦なく膝蹴りをお見舞いする。
避けられる前にニーキックは綺麗に骸の顔に吸い込まれ、慣性に従って倒れていく。
その顔は喜色で染められ、鼻から血も溢れていた。
そういえば骨が折れるような音もしただろうか。

今は同じ男だが、綱吉の方は触れて欲しくないことがある。

やり過ぎたかと思ったが、人とのコミュニケーションを図る際、越えてはならない線というものがある。
それを越えてきた骸に憐れみはいらないか、とその場を後にし、グラウンドへと急ぎ走って行った。


一方、応接室では雲雀が満足そうに日本茶を啜っていた。

「我ながら良い仕事をしたね。これで、応援合戦の優勝はウチだ」
静かに湯呑みを置いた雲雀は、ふと我に返る。

雲雀が綱吉にさせた格好。
それは、体操着の上に風紀委員が着用する学ランを着せただけだった。
ただ、それだけ。

にも関わらず、あの色気は何なのだ。

中二男子の平均にすら劣る体格。

風紀連中に合わせた学ランはぶかぶかで、体操着の短パンは布地に覆われて見えなくなっていた。
一緒に穿かせたハイソックスは学ランと白い肌とのバランスが絶妙にマッチし、白い太股に目を奪われた。



「ちょっと‥‥勿体なかったかな‥‥」



誰もいない応接室に融けた言葉は、


雲雀だけの秘密。

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