「嫁に、来ませんか?」
「は‥‥? あの、揚修さん?」
目の前で佇む人を見上げる。
隣にいた清雅は、片眉を上げただけだった。
「‥‥趣味ワル」
「ちょっと清雅! どォゆう意味よ!!」
「そのままの意味だが? お前は言葉すら理解できないのか」
「貴方の意見は聞いてませんよ。陸、清雅君」
ヒュ、と気温が下がった気がして、秀麗は怒るタイミングをつい外してしまった。
なんだか、静電気も起きてる気もする。
「こいつが結婚して退官すれば、俺は清々する。大いに祝ってやるぜ」
「で、『やっぱり口先だけかー』って嗤うんでしょう?!」
「だからなんだ」
「だーーーれが辞めるもんですか!! ハッ、おあいにくさま!」
「嫁の貰い手があるうちが華だぞ。いいから結婚しておけ。ああ、それとも結婚は俺としたいのか? 冗談は止してくれ」
秀麗の血管が、ハデな音を立てて切れていく音が聞こえた。
「お百度参りされたってあんたの所になんか嫁ぐもんですかぁーーーッッ!!」
「では」
するり、と揚修が握り締めた秀麗の拳を包み込む。
「あ、あら、揚修さん…」
そのまま秀麗の拳を口元へ持っていき、軽く口付けた。
「よっ、よ、よよ揚修さぁぁぁん?!」
それは、本当に軽く唇の先を僅かに感じられる程の。
「始めは思い付きでしたが、今は」
秀麗の手を解放し、にこりと微笑む様は裏などなさそうで。
この人が、吏部尚書と絳攸様を糾弾したのだわ、と思い出すと、秀麗は後ろが薄ら寒くなったような気がした。