「おっと。」
それは、間違いなく事故だった。
いつものド突き合いの中、ヨロけたあいつをついつい抱き留めてしまったから。
狙ったワケじゃあねェ。
避けるヒマもなくグラリと傾いだ身体が、思いも拠らず近かったから。
自然、手が後ろへ回る。
その時の違和感。
当然の認識としてある"ハズ"の手のカンジを捜そうとわさわさ背中をまさぐった。
が。
(ない―――ない‥‥)
「オイ? オイ!! テメー、ヒトの背中撫ですぎなんだヨ!!」
捜し求めるのに夢中になったせいか、間近でボディーブローを喰らってしまった。
「うげ‥‥っ」
「レディに触るなんざ100年早いネ! 出直してこい!!」
オマケにカウンターも喰らう。
あるまじき失態。
だけど、それドコロじゃない。
しばらく…その場でへたり込んでしまっていた。きっと、顔も赤い。
喰らってしまったカウンターのせいだけじゃないことは、確か。
□□□□□
「ダンナぁ」
万事屋に行くと、相も変わらず銀髪のダンナがヒマそうに茶を飲みながら新聞を広げていた。
「おー。どーしたの、沖田くん」
「チャイナにブラジャー付ける様言っといた方がいーですぜィ」
ぶはぁ、と飲んでた茶を吹いた。
それは綺麗に放射を描き、膝と新聞をしとどに濡らした。
「ちょ、ちょっとォ?! 沖田くんんんん〜〜〜?!!!」
「抱き締めた時に、男にあらぬ想像させますぜィ」
「え? え?! なにソレぇぇぇ!! お前ウチの神楽ちゃんのこと抱き締めたの?! いつ?! おとーさんは許しませんよォォ!!!! つーか、あらぬ想像ってなーにー!!」
真っ青になって喚くダンナを置いて、外へ出た。
「‥‥あンの、――クソ餓鬼ィィィッッ!!!」
後にした万事屋から、ダンナの雄叫びが聞こえた。