「足を出すだなんて、その依頼者って変態なの?」

しかもツルツルにするだなんて、とねっとりとした脱毛用の蜜蝋に膝下全部を被われたカカシ先生の脚を眺める。
180を越した男性の脚に、満遍なくその蜜蝋を塗る手伝いをさせられ、その労力にいろんなエネルギーを削られた私は呆れるしかない。

「どうかな。ま、特殊な感覚の持ち主には変わりないだろうけど」

「私に脱毛の手伝いをさせる先生もどうかと思うわよ」

わざわざ脚や腕の脱毛までしなくとも、と呆れたくても、依頼だもの。
私に詳細を知る権利は無いけど、依頼内容に添った方が良いことくらい解ってる。
ただ、そんなフェティズムをオプションに加えるからこそ、依頼者は変態だと思うのよ。

「だって、脱毛なんかしたことないし」

「あら、今まで一回も?」

「ないねぇ」

一皮剥けば涼しめの整った顔立ちだから、若い時はさぞ可愛かっただろうし“そういった”様々なコトに引っ張り凧かと意外に思う。
ヤル気のない眠たげな目だって、見方を変えれば女を誑す流し目だもの。
戦闘中は特に、目から発せられる覇気が色気を伴って、殺気と相まりクラクラする時もある。

「貴重な先生の初体験を私にさせてくれるのね」

「不本意だけどね」

「不本意ついでに‥‥その可笑しな服を着た先生も見たいわ」

無造作に部屋の片隅に投げ出されている白い物体を指差す。
適当に置かれている所為で形状は解らないけど、服、である筈なのに、それは紐にも帯にも見える。

「えぇー、笑い者にする気?」

「純粋な好奇心と言ってよ」

「じゃあ、サクラも着てよ」

「‥‥アブノーマルすぎなければ、今度、ね」

「じゃあオレも今度。――ところで、この蝋、いつ剥がすの?」

「今よ」

「いッ〜〜〜、っっってぇぇええ!!」

乾いて飴色に固まったソレを、遠慮容赦なく下から上に向かって勢い良く剥がしてあげた。
うん。
痛いわよねええぇ。

「先生、そんなに濃くないのに、やっぱり痛いのねぇ。女の子より一本一本が太いからかしら?」

剥がした硬い蜜蝋を見て、絡んでいる毛にしみじみ言ってしまう。
ごめんね、カカシ先生。
痛かったろうけど、やっぱり他人事なの。
そして、カカシ先生の潤んだ瞳って、貴重なんだもの。
グレーと赤い写輪眼とのオッドアイは、贋物の硝子っぽくてとても綺麗。
この潤んだ瞳で見つめられると、全身穴だらけになったようにも錯覚する。

「そんな分析しないでチョーダイよ‥‥。後は剃ってくるから」

「先生が着るのはソレよね?」

「ああ」

「パンプスも?」

「パンプスも」

‥‥やっぱりあのデッカいパンプス、カカシ先生用なんだ‥‥。
依頼者から支給されたという服は相当数あったらしく、カカシ先生に指定されたもの以外にも、間違いなく私に着せる為だろう何点かも持ち帰っていた。

カカシ先生が浴室へ消えてしまうと、箱に押し込まれているソレらを取り出してみる。
一見下着のようなソレは、素材が見たままの用途を裏切っている。
ツヤツヤ素材の服っぽいもの、全身メッシュ素材のボディスーツ。
そして、やたらゴツくて華奢な靴。
相反する要素は、つまり、履くと歩きにくく、拘束されている気になるんだろう。
カカシ先生が私用に持ってきた靴の一つを履いてみる。
鋲と鎖に彩られたそれは重いのに踵は視界が変わるほど限界まで高く、全体が底上げされているのに、立ち上がると爪先ででしか歩けない。
依頼者は特殊な趣味人なのね。

つくづく、自分に回された任務じゃなくて安心した。
こんな歩けない靴で任務だなんて、私には無理だわ。

「頭のてっぺんを糸で吊られるみたいに、身体の中心を引き上げてごらん。肩の力は抜いて」

浴室から出て来たカカシ先生が、フラフラ真っ直ぐ立てない私に言う。
鳩尾を上げるように手を添えられれば成る程、確かに立ち易く、歩行も安易になるだろう。

「身体の重心は爪先だけで。足の裏全部で歩こうとするから膝が曲がってバランスを取れないんだ」

背筋を使って顎を引かせ、目線を真っ直ぐ、という助言に従うと、フラついていた身体が落ち着いた。

「さすがに重心を落として攻撃をする体術なんかは無理だけどね。激しい動きをしなきゃ、サクラなら大丈夫でショ」

「うん。ちゃんと立てるわ。けど、長時間はムリね」

「綺麗に真っ直ぐ立ててるよ」

「ありがと。ねえ先生、脚、見せて?」

膝丈のゆるい脚衣だけ穿いたカカシ先生を出窓の縁(へり)に寄り掛からせ、隣に寄り添う。
手をそっと脚へ滑らすと、何の抵抗も無くカカシ先生の肌の感触がした。
毛の無い、お腹や背中の肌と同じ感触。

「綺麗、カカシ先生の脚。すべすべ」

強く押し付けないで撫でる掌は、さらさらとした肌触りで心地良い。

「なんか肌寒い感じもするけどね。お気に召した?」

「うん。そうね、とっても」

「そりゃ良かった」

あまりに抵抗なく気持ち良いくらいにすべるから、爪の表面で同じようにすべらす。
露出してる膝下だけでは足りず、脚衣を股の所までずらした。

「くすぐったいよ、サクラ」

「だって、先生の脚のラインも、肌触りも、すごく綺麗なんだもの。触っちゃダメ?」

「‥‥勃っちゃうよ?」

「脚を触ってるだけなのに?」

「ん。気持ち良いからね」

先生を勃たそうか迷った私の指は、爪でなく再び掌でカカシ先生の脚を内腿を避け、全体に撫でていく。
だけど、やっぱりそれだけじゃ足りなくなって、結局また爪の表面で肌の表面ギリギリをなぞってしまう。
内腿ギリギリを爪が掠ると、あからさまにカカシ先生の片足が撥ねた。

「ダメ、サクラ。勃っちゃう」

少し焦れた高めの声が私を遮ろうとする。
でも、ごめんね先生。
指先だけで大人の男性を高揚させることができるだなんて、私知らなかったの。
恥じるようにうっすら赤く色付く目元がやらしいわ。
人形のように空虚に光る眸に、熱を燈らせ煽りたい。
色違いの湖面は再びとろりと潤み、感情が湧き出る。
触って、触らせて、脱いで、脱がせて、弄って、熱くさせて、気持ち良くさせて――

なんて雄弁で明け透けに我が儘な眸なんだろう!
カカシ先生は、目だけで私を熱くさせるわ。
誘われるように膝頭を指先でくるりと擽り、先生の目の前に重たく華奢な靴を履いた自分の足を掲げた。

「脱がせてほしいな」

「‥‥いいよ、甘えん坊さん」

掲げた足を支え、ジャラジャラと重い付属品をひとつひとつ外してくれる。
じゃらんと垂れ下がる鎖が増えていき、鋲で飾られたベルトも取り払われると、ごとん、と重たげな音をさせて靴の機能を充分に発揮できていない靴が落ちる。
軽くなった足の甲に、カカシ先生がひとつキスをした。
撥ねた鼓動をなるべく無視して、もう片方の足を差し出すと、そちらも丁寧に脱がせてくれた。
そして、やっぱり甲へキス。
‥‥だけじゃなかった。
土踏まずの側面をも、ちろりと嘗められた。


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