短編 | ナノ


最初に彼への恋心を自覚した時は、めちゃめちゃ驚いた。それはもう自分で自分に若干引いたレベルで。だってその時年下の彼はまだ小学生で、中学生だった自分とは住んでる世界が違ったのだ。高校生から見れば小学生も中学生も変わらなく見えるだろうし、社会人から見たらみんなまとめて学生だ。だけど、当時中学二年生だった私にとっては、二つも年下の小学生に恋をしたという事実はかなりショッキングで、自覚してからというものそれについてかなり悩む羽目になった。


「……なーんてことも、ありましたなあ」
「桜さんって、そんな昔から俺のこと好きだったんですか」
「なに、気づいてなかった?」
「あははは、全く」
「ま、私も虎丸の方から告白されるなんて思ってもみなかったけどね。うん、あれは心底驚いた」


虎丸の運転する車の助手席で、私は外の夜景を眺めつつはあとため息をついた。私が虎丸に恋してから早いもので十年だ。私も年取ったな。まあ、その分こいつの扱いにも慣れたけどね。


「どうしたんです?やっぱり疲れてますか、仕事明けだし」
「んーん、私も年取ったなーって思ってね」
「まだ二十四じゃないですか。十分若いですよ」
「どうかなあ、虎丸より二年分おばさんだもんなあ」
「そんなの、どうしようもないですよ。昔だって今だって年齢差は変わりっこないです」
「そうだけど」


変わりっこない。そう、年齢差なんて変わりっこないのだ。虎丸が二歳成長すれば、私も否応なしに二歳年を取る。そりゃあ確かに昔よりかはお互いのいろんな差は縮まったけれど、未だに私は虎丸と二歳差であることに思いを巡らすことがある。
たかが二歳差。世の中には十歳二十歳離れているカップルや夫婦が溢れているのだから、私が悩むのはおかしい話かもしれない。だけど、ちょっとだけ、やっぱり私も不安なのだ。


「虎丸のせいだな、これは」
「はい?」
「うん、そうだ。虎丸が悪い」
「急に何ですか」
「虎丸がモテるから、私が不安になる。だから大したことないはずの年の差にもいつまでもこだわっちゃうんだ」
「……」


無理やり虎丸のせいにしてみた。無理やりだけど、半分は本音だ。だって私が三十歳になった時、虎丸はまだ二十八歳。周りにはきっとピチピチ二十代の女の子が集まっているに違いない。あー、リアルな数字を考えてみたらなんか泣きそう。私が一人で感傷的になっていると、隣からはため息。減速した車が停まったのは、いつの間にか近くまで来ていた私のマンションの前だ。


「……まったく、桜さんは」
「……怒った?」
「いいえ?でも帰したくなくなりました」
「え?」


予想とは違う言葉に思わず首をかしげると、虎丸は自分と私のシートベルトを外すと、半身を乗り出してきて私を抱き寄せた。スーツの肩に顔を寄せる形になって、香ったのは嗅ぎ慣れた虎丸の匂い。え、なに、急にどうしたの。


「虎丸?」
「桜さん。俺、桜さんのことすごく好きなんですよ」
「な、にを」
「一大決心して告白した日のことは、一生忘れられないんじゃないかと思います」
「……」
「めちゃくちゃ大事に思ってるし、それをずっと続けたいって思うんです。でもそれって、最初に好きになった気持ちと全く同じではないんですよね、多分。貴女には本当、何回も何回もああ好きだなって思わせられる。敵う気がしません」


話が全く読めない。だけど、そんなの気にならないくらいの愛がビシバシ伝わってきて、私は嬉しいやら気恥ずかしいやら。やっとのことで、可愛げのない一言をひねり出した。


「……で、その心は?」
「桜さんがあんまり可愛いこと言うから、惚れ直しました」
「バカ」


けらけら笑うと、虎丸も笑ったのが分かって、二人して抱き合ったままひとしきり笑った。
成人して、バリバリ働いて、仕事帰りに恋人を車で送るなんてこともできるようになった虎丸。私の不安な気持ちもまとめて愛してくれるほど大きくなった彼に、私もまた惚れ直しそうだ。



170212
初の虎丸
まだ更新するんだって思った方、私も同じ思いです

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