大好きな貴方へ | ナノ

知らないあなたを知る幸せ


「弔くん!こっちこっち!!」

「はしゃぎすぎ」

涙は死柄木の手を引きあっちへこっちへと連れ回す。
死柄木は口では文句を言うがなんだかんだこの時間を楽しんでいる。

しばらくしてお昼を食べることになり、2人は水族館内で軽い食事をすることにした。

「はい、どーぞ!」

「なにこれ」

「作ってきたの!!」

お弁当持ち込みOKだから!弔くんに食べて欲しくてという涙。
ありがと、と死柄木は言い箸を掴む。
その時、普段の自分なら有り得ないミスをした。
死柄木の手に持つ箸が砂のように崩れ落ちたのだ。

「弔くん、お箸…」

涙はきょとんとしており、死柄木はやってしまったと頭を抱えたくなった。

「ごめん」

お箸だめにしちゃったね、と言えば涙はキラキラした目で死柄木を見ていた。

「すごーい!今の個性??」

お箸がなくなった!!と騒ぐ涙に死柄木は安堵やら呆れが混じったため息をつく。
そうだ、この女はこういう奴だったと。

「普通さ、怖がらない?」

崩れたんだよ?とそう言えば涙はニコッと笑いさも当然のように言うのだ。

「弔くんの知らなかったことがまた一つ知れて嬉しいよ」

本当にこの女は馬鹿だ。
ただそんな馬鹿さがたまらなく愛しいとも感じた。

「じゃあお箸1個しかないし、私があーんしてあげるね!」

「それはいい」

「えー!!?」

早く食べないと、イルカショー見れないよと死柄木が急かせばそうだね!と急いで食べ始める。
いらないとは言ったがちょいちょいはい弔くん!と死柄木にも食べさせる。
箸が一つしかない以上こうしなきゃ食べられないから仕方ないのだが。
落ち着きのない食事をしながらも死柄木は彼女の作ったものをしっかり味わう。

「お菓子作り得意なだけあるね」

美味しいよ、と言えば彼女は笑って実はさ、と言う。

「その、弔くんに食べてもらうために練習したの」

お菓子作りと勝手違ってすごい失敗したんだよね、と苦笑いする彼女に死柄木の胸はまた高鳴る。自分の為に努力してくる彼女にときめいたのだ。

「もう、さ。本当に俺のこと好きだよね…」

「毎回言ってるじゃん!!」

「いま再認識したの」

「なにそれ」

認めればきっと楽になる。
こいつのこと好きだと。

「あ、イルカショー!!」

「食べ終わったでしょ、行こ」

死柄木はさっきまで思っていたことを振り払うように立ち上がる。

「待って、弔くーん!」

「はやくしなよ、涙」

「え、いま!!」

「さっさと行くよ」

「はーい!!」

とりあえず今は、名前を呼ぶだけ。



2016.6.16


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