04
この時期になると家庭訪問というイベントがあるお陰で早く帰れる。
クラスの子達は大喜びでもう終わったから遊ぼうぜーなどと話している中、奏の隣の轟は暗い顔をしていた。
「どしたの、轟くん」
と声をかけてきた奏に轟はああ、と暗い声で返事をした。
「ほんとどうしたの?大丈夫?」
調子でも悪い?と背中をポンポン叩いてくる奏。それは心地いいのだが、別に体調が悪い訳では無い。
そう言えばなら良かった、と手をとめる。
「家庭訪問、俺の家今日なんだ」
「それでか」
なんか憂鬱になるよねなんて言う奏。
しかし轟にとって家庭訪問は最悪のイベントであった。
あの大嫌いな父親がいる、それだけで気分は悪くなるのだ。
「家、帰りたくねぇ…」
「轟くんもそう言うことあるんだ」
「ある」
轟は暗い顔のままである。
奏はこんな状態の轟をほっとくなんて出来ない、と思い1つ提案する。
「うち家庭訪問終わったしさ、よかったらうち来ない?」
「はっ?」
そう言えばきょとんとした顔をされた。
少しでも気が紛れたら、と思って言ったそれは間違いだったか?となる奏。
「いや、かな?」
そう聞くと轟は首を左右にふる。
「迷惑じゃ、ねえか?」
「迷惑じゃないよ」
そう思ってたら言わないって、と奏は笑う。
じゃあ、行くと言う轟。
「とりあえず1回家帰らなきゃね」
「…帰りたくねぇ」
「おお…」
思ったよりも深刻なそれに奏は悩む。
一般的に一度家に帰ってから遊ぶものだし、万が一何かがあっても困る。
うーん、と悩む奏。そしてじゃあ一緒に轟くんの家行こう、と言った。
「ささっと荷物だけ置こう?嫌かもしれないけど」
そう言う奏にしぶしぶわかった、と言う轟。
「よし、行こう」
足が進まない轟の手をギュッと握り歩き出す奏。
靴に履き替える為に一度手を離し、靴を履いてまた轟の手を引く。
「轟くんの家どっち?」
「こっちだ」
「うちもこっちだよ」
案外近かったりしてね、と笑う奏。
轟はそうだな、と言いながらも暗い顔のままである。そんな轟に奏は聞く。
「轟くんはさ、何が好き?」
「なんだよ、突然」
奏は轟に笑いかけながら、好きなものの話すると楽しいでしょ?と言う。
それに少し悩みながら、轟はそばが好きだと答える。
「そばかー、ざるそば?」
「ああ」
「なかなか渋いね轟くん」
ちなみに私はざるうどんが好きかなー、とか奏が返す。
「轟くんは蕎麦つゆにわさびいれる?」
「いれる」
「だよね」
味がしまるというか、とにかく美味しいよね!と笑いながら言う奏にそうだなと返す。その後も2人は食べ物の話で盛り上がった。
そして食べ物の話で盛り上がっている間にあっという間に轟家に着いたのだが、奏は轟家を見て思わずおー、と感動の声を上げた。
「でかい」
「そうか?」
これをでかいと言わずなんと言う、と思いながら奏は轟家を見る。
豪邸である。
「荷物急いで置いてくる」
「待ってるね」
そう言って轟は家に荷物を置きに行く。
そしてすぐに戻ってきた轟は奏の手を取り早歩きしだした。
「ちょ、ちょ!どうしたの!」
「…親父がいた」
はやく家から離れたい轟は早歩きをとめない、しかし奏が無理矢理ぐいっと引っ張りそれを止めた。
「轟くん、うちの家反対方向だよ!」
「…、わりぃ」
「いえいえ」
こっちね、と轟の手を引き自分の家の道を行く奏。
轟家から近く5分程度で着いたそこは普通の一軒家だった。
「ここが我が家でーす」
鍵を使いガチャりと開け、どうぞ!と言う奏に轟はおじゃましますと言い家に入った。
2016.6.5