08
時が経つのは早いもので。もう運動会当日である。
ドキドキワクワクしながらの運動会。いやほんと毎年あるのに、なんでこんなにドキドキしてしまうのだろうか…。
奏は、ハァとため息をついた。
なんだかんだであっという間に他の競技はおわり、次はついに奏が出る、借り物競走である。
「い、行ってくる」
「緊張しすぎだろ」
手のひらに人って書くといいらしいぞ、と轟がアドバイスすればやってみるよ、と奏は震えた声で返す。そして定番である謎のまじないをやってみるも緊張などとけるはずもなかった。
「ぜん、ぜん!緊張とけないよ…!」
あー!もう無理!という奏。
「ほら。貸せよ」
そんな奏の手を取り轟がその手のひらに人という字を3回書き、それを奏の口に押しつける。
「んー!!」
「さっき3回書いてなかったろ?」
だから緊張解れねえんだよと轟が言うが、多分そうじゃないと思う!!と奏は言いたかった。しかし口が塞がれてるので反論出来ず、手を離されたのでしようとしたら選手の方は、と呼ばれてしまいそれをすることは出来なかった。
しかし先程のやり取りのおかげだろう、緊張は見事にほぐれた。
「位置について、よーい」
ドンっ の合図で前の組みが出ていく。
箱の中にあるお題をクリアするため、あっちからこっちから物を借りようと必死になっている。
前の組みの全員がお題の物を持ってゴールしたので、次は奏の番である。
「位置について、よーい (ドンッ)!!」
奏はすぐに走り出し、目の前の箱の中から1枚の紙を取り出す。
そこに書いてあるのを見た瞬間、奏は自分のたった1人の友人のもとへと駆け出した。
「焦凍くん!!」
「奏、なに借りにきたんだ?」
そう言う轟の手を掴み奏は焦凍くんを!!と言ってゴールへと走り出す。
「っ、おい!なに書いてあったんだよ!」
走りながらそう聞く轟に奏は後で!と短く返し、必死にゴールを目指す。
結果は5人中3位と非常に微妙な結果だが、奏は笑顔だった。
「で、何書いてあったんだよ…」
轟がそう聞くと奏はぜーはーしながら、手に持つ紙を見せる。
「ともだち…」
「へへ、コレ見たら…、焦凍くんが浮かんでね」
「そうか」
轟は嬉しそうに、ありがとなと言った。
奏は息を切らしながらどういたしましてと返すのだった。
2016.6.28