「エア、お前…また無茶しやがったみたいだな?」 『べ、別に無茶なんかしてないもん。…ていうか、誰から聞いたの?』 「クリスマスだ」 『……ツール、今度クリスマスのあの頭に蜘蛛の巣描いて』
煙草を吸いながら笑うツールがベッドに腰かける私の足首の具合を診てくれる。 強盗集団に奪われたお金を取り戻す、という簡単でつまらない仕事で足首を思いきり捻ったなんて…、本当に情けない。というか、わざわざ迎えに来たヤンやクリスマスにそれを知られて笑われたことが一番悔しい。
「おいおい、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
立ち上がってペチペチと頬を叩いてきたツールに苦笑し、彼が手当てしてくれた足にブーツをゆっくりと履かせる。 ズキリと走る痛みに思わず呻いてしまった。
「また随分と酷ぇ捻り方したな?しばらく仕事は無理だ」 『え、だ、大丈夫だよ!全然走れるし…』 「お前の保護者が黙っちゃいないぞ」
うぅ、と眉間に皺を寄せた私の隣に救急箱を片付けて腰かけたツールの言葉を聞いたかのようにバイクの低いエンジン音と共に現れたバーニーに肩を落とした。 ちなみに、バーニーには怪我のことは言っていない。
「噂をすれば、だ」 『……バレてるかな』 「さぁな?」
私で遊ぶツールを思いきり睨み、腰かけていたベッドから立ち上がる。
「エア、帰って来たらすぐに連絡しろと言っただろう」 『ご、ごめんね、バーニー。ちょっと後片付けに手間取っちゃって』
優しく頭を撫でてくれるバーニーに慌てて微笑む。
「どこも怪我はしてないな?」
ギクリ。 そんな風に顔が引きつったのを彼は見逃さなかったらしく、眉間に皺を寄せながら私を見下ろした。
「……どこを怪我した」 『ど、どこも怪我なんてしてないよ。ほら、全然元気!』 「お前は嘘をつく時に目が泳ぐ。……正直に言わないと俺は何をするか分からないぞ」 『……足首を、捻っちゃって…』
その瞬間、ツールがゲラゲラと笑った。 私がもう一度睨みつける前に彼は出て行き、残された私は黙ったままのバーニーに頭を下げることしか出来ない。 バーニーがため息を吐くと同時にいきなり私の前に膝をついて捻った足のブーツを脱がせ始めた。 腫れ上がる足首をスルリと撫でられる。
「あまり無茶をするなと言っているだろう、エア。お前は女だ」
また、だ。 拳を握りしめて唇を噛み、揺らぐ瞳で彼を見つめる。
『本当にごめんなさい、バーニー。これからはちゃんとする。だから…もう〈女扱い〉しないで…』
私を見上げるバーニーの瞳に宿る光が悲しさと寂しさを宿している。 分かってる。彼が何を言いたいのか、何を伝えたいのか分かってる。 だからこそ、私はーー…
『……しばらくは休養するね。治ったら一緒に仕事しよう、ね?』
立ち上がったバーニーに抱きつくと、彼は優しくも不器用に私を抱きしめ返してくれた。
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