『ただいま、お母さん』
「あら、エア」

作物を収穫していたお母さんが笑顔で私を迎えてくれる。

「今日は講習で遅くなるんじゃなかったの?」
『そうだったんだけど、今日は収穫日だったでしょ?だから早く帰ってきたの』
「……エア」

お母さんがお約束の言葉を言う前に軽く肩を竦めてドアノブに手を伸ばして家の中に入った。
大学に通い始めたのは勉強して良い就職先を見つけてお母さんを楽にさせるため。
でも、お父さんがあのハリケーンで亡くなってからは農場を1人で管理しているお母さんの手伝いを優先させるのが当然だ。
長女として責任を感じずに自由な道を歩んで欲しいと言われても。

「エア姉さん」

バッグを置いて短パンにタンクトップといったラフな格好に着替えて大量の作物を手に畑から出ると、そこには世界中を旅しているはずの弟であるクラークがいた。
私が両手で持っていた作物を軽く片手で抱えてくれた弟を驚きの表情を浮かべてパチパチと瞬きをしながら見上げる。

「弟が帰って来たっていうのに嬉しくないのか?」
『目の前にいきなり現れたらびっくりしちゃうよ!』
「ははっ、それもそうだな!」

即答した私に苦笑しながら笑うクラークの後ろから現れたお母さんが凄く嬉しそうに微笑みながら私たち姉弟を家の中に入るように促し、久しぶりに3人で夕食を食べる。
クラークと初めて会ったのは、私がまだ小さな頃だった。
映画や小説で観るような宇宙船に乗って現れたクラークをお父さんやお母さんは当然のように家族として迎え入れ、私も可愛い弟が出来たと喜んだのを今でも覚えている。
血は繋がっていないし、この地球外のどこかに本当の家族がいるかもしれない。
それでも彼のことを弟として見ていた、はずなのに。

『……最低、だよね』

熱いシャワーを浴びながら1人呟く。
クラークのことを弟ではなく「男」として意識するなんて、家族として、姉としてーー最低だ。

「何が最低なんだ?」

突然バスルームに聞こえた声に驚いた私が振り返ると、そこには裸になったクラークがいて。

『な、何…してるの!わ、私が入って「だから、だろ?」……へ?』

ガチャリと響いた鍵の音をどこか遠くで聞いたような感覚を感じた瞬間、クラークに抱きしめられていた。
厚い胸板に頬が触れ、彼の逞しい腕に優しく包まれる。

「会いたかったよ、姉さん。……いや、エア」

頭の中が真っ白になっていた。
どうして私たちはお互い裸で抱きしめあっているの?
どうしてクラークは私を名前で呼ぶの?


どうして、私たちはキスをしているのーー…?






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