『おはよう、グレン』
今じゃ貴重品となったインスタントコーヒーを飲むグレンに欠伸を漏らしながら軽く挨拶をすると、彼は苦笑しながら挨拶を返してくれた。
「おはよう、よく眠れたみたいだな」 『……それって褒めてるの?』
む、と眉間に皺を寄せる私に苦笑するグレンは私の大事な友達で、良き理解者だ。 寝癖を直しながら彼が寄りかかる車のボンネットに腰かける。
「今日の予定は決まってるのか?」 『ううん、今日は特に何も。カールたちはローリたちと一緒に勉強だし…洗濯もキャロルたちがしてくれるから』 「そうか、じゃあ一緒にーー」
グレンに誘われてやって来たのはアトランタ近くにあるコンビニ。 品物よりウォーカーの方が多かったけれど〈使えない〉よりはマシだった。 まだ食べられそうな缶詰やハブラシ、タオルをグレンが背負うリュックに入れていく。
『何だか変な気分。万引きしても怒られないなんて』 「確かに。誰もいないし…取り放題だもんな」
背負い直すグレンを背後に先頭を歩く私たちの前に現れたウォーカーは、まだ小さな女の子だった。 可愛らしいサーモンピンクのドレスは薄汚れ、顔面は醜く変形している。 呻きながら近寄ってくる少女に容赦なく日本刀を振り下ろし、血飛沫を耳に残しながらグレンの手を掴んで走った。 どうして走っているのかは分からない。 ただ、ただ早くあの場から逃げ出したくて、気づけばキャンプ場まであと少しというところだった。 2人で荒々しく息を吐く。
「ハァ、ハァ…っ、大丈夫か、エア」
心配そうに聞いてくるグレンにゆっくりと頷き、それから涙を流した。 今まで何度もウォーカーたちを始末してきたけれどーー、まさか自分が人を殺すことになるなんて思わなかった。 誰にも咎められない…否、咎める方がおかしい世界になるなんて。
「……ごめん、俺のせいだ。俺がエアを頼って誘ったから…」 『グレン、違うよ。それは違う』
涙を拭いながら彼に微笑み、手を握りしめる。
『私が誰かに頼られるのが好き、って、グレンが一番よく知ってるでしょ?だから…大丈夫だよ』
それに、グレンは友達なのだから。 そう言った私にまた苦笑したグレンに引かれるように歩き出した。
「俺も強くならないといけないな。…ダリルみたいに」
その言葉には2人で爆笑した。
グレンは話が進むごとにイケメンに頼もしくなってる気がする。
(51/60)
back
|