〈エア、ホントに大丈夫か?〉

見上げた先にある青い瞳に苦笑しながら何回目かの同じ質問にコクリと頷く。
彼、サイドスワイプはそれでも納得がいかない!というように両足のタイヤをキュルルルと鳴らして腕を組んだ。

〈何でお前があの野郎に車庫から出ろって説得しなくちゃなんねーんだ?大体あいつが俺よりも弱いからいけない…〉
『サイドスワイプ!それ以上言ったら嫌いになっちゃうよ!』
〈は、はぁ!?な、何でだよ!俺はただエアが心配で…!〉
『それは嬉しいけど、とにかくダメなの。ね?』

ボンッ!と聞こえた音に慌てて声をかけるけれど、サイドスワイプは体中から白い煙を噴き出しながらビークルモードにトランスフォームして歩いて来た道を爆走しながら戻って行ってしまった。
ふぅ、と深呼吸をしてから目の前にある車庫に繋がるドアを開けて中を覗き込む。
薄暗い車庫の隅に探していた彼の姿を見つけると、車庫のドアを閉めて静かに名前を呼んだ。

『サイドウェイズ』

そこにいるアウディ・R8が素早く反応してギュルン!とエンジンを唸らせながらヘッドライトで私を照らす。
眩しい光にぎゅっと目を閉じながらもゆっくりとアウディ・R8の姿のままのサイドウェイズに近づいていく。

『大丈夫だよ、ここにいるのは私とサイドウェイズだけだから』
〈……本当か〉
『うん』

コクリと頷きながら微笑む。
信じてくれたサイドウェイズはヘッドライトを消してビークルモードからトランスフォームして、車庫の壁に寄りかかるように座りながら私に手を差し出して来た。
遠慮なく彼の手に腰を下ろす私を持ち上げたサイドウェイズが頬を寄せてくる。

『サイドウェイズが今度は車庫から出て来ないって聞いて、びっくりしちゃった』
〈……悪い〉
『ううん、いいの。私と会えなくて寂しかったんでしょ?』
〈な…っ!バ、バカ言うな!寂しくなんかない!〉
『私はサイドウェイズに会えなくて寂しかったよ?』

ピシュン!とまるでケーブルが弾け飛んだような音が聞こえたと同時に大きく排気するサイドウェイズにクスクスと笑う。
彼は一度、サイドスワイプの手によって殺されかけた。
その「死」の恐怖が彼の中から決して消えることはなく、たまにこうして誰もいない車庫や倉庫に数日…酷い時には数ヶ月も引きこもる。
その間に誰が声をかけても(あのメガトロン様でさえも)サイドウェイズは返事をしない。
そういうときに呼ばれるのが私というわけで。

『サイドウェイズがいないとドライブにも行けないし…こうしてお話も出来ないんだもん』

彼の赤い瞳が僅かに揺らいだ気がした。
そっと金属の頬に自分のぷにぷにとした頬を添える。

『どんな時でも傍にいてあげる』
〈……エア〉
『サイドウェイズが悲しい時や辛い時…苦しい時、私が傍にいてあげる。…毎日一緒にはいられないけど、電話もするしメールもするから』

私には彼ら…トランスフォーマーのような鋼鉄の体も豊富な知識もない。
ましてや戦争を経験している誇り高い軍人さんたちでもない。
私はただの非力な人間。
だからこそ、私にしか出来ないことがきっとある。

『だから…、私を拒んだりしないで』

ワガママなのかも知れないけれど、とサイドウェイズに微笑む。
彼はただ小さく首を左右に振った。

〈俺が…、俺がお前を拒むはずがないだろう…っ!〉

もしもサイドウェイズが人間だったら、泣いているのかもしれない。
そう思った私は彼の顔に思いきり貼りつくようにして抱きついた。







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