「なぁ、エアはどう思う?」
『ふぇ?』
「……(何だこの可愛い生き物)」

トニーが内心でそんなことを思っているなんて知らない私はモグモグと口を動かしてサンドウィッチを飲み込んだ。
彼はニヤリと口角を上げて一着のドレスを私に見せてきた。
淡い水色のカクテルドレスはとても可愛くて、思わず微笑んでしまう。

「今度の囮捜査で君が着るドレスだ。俺はこれじゃなくて…こっちの黒いドレスをオススメしたいんだが」
「ダメよ、エア。貴女にはこっち」

トニーが差し出した写真に写るのは露出が激しい黒を基調としたドレス。
それを見て眉間に皺を寄せる私に同意するように現れたケイトがトニーから写真を奪い取り、近くにあったゴミ箱に捨てた。

「狼に餌を上げるつもり?」
「餌じゃなくて効き目があるクスリだ」

バチバチと火花を散らす2人に慌てる私の肩を優しく叩いてくれたマクギーが、苦笑しながらトニーの手から取ったドレスを渡してくれる。

「あまり大胆なことはしないように。上手く誘い出すだけでいいんだ」
『う、うん。分かった』

じゃあ着替えてくるね、とその場を後にした私はトイレへと向かう。
今回の事件は遺産の相続が原因で起きた家庭内での殺人事件。
お金持ちの人たちの間ではよくありそうな事件だけど、一般のお金持ちならまだしも海軍大佐の家族内となれば話は別で。
トニーによれば、現段階で犯人の可能性が高いのは殺された海軍大佐の1人息子。
そんながどうやら私をお気に召したらしく、気づけばディナーに誘われていた。
一般人な私にはディナーになんて誘われたことも行ったこともなく、ましてやドレスなんてそんなもの持ってない。
トイレの個室から出て鏡に写る自分を見つめる。

『う、うわぁ…、すっごく違和感を感じる…』

髪をアップにまとめてグロスを塗り、誕生日にケイトから貰ったネックレスをつけた自分。
こんな格好をするなんて今日が最後だろうな、と思いながらトイレから出ると同時にボスと会った。

『あ、ボス』
「……」
『……ボス?』

ボスの今の状態を言葉で表すのなら「Rigidity」。
私がどうしようと困っていると、ボスの後ろから見慣れたツインテールが見えた。

『あ!アビー!』
「? ……え、もしかしてエア!?うそ!きゃー!すっごく可愛い!」

駆け寄ってきたアビーが少し興奮気味に叫びながら携帯を取り出し2人で写真を撮っていると、今まで黙っていたボスが口を開いた。

「エア、準備は出来たか?」
『あ、はい!後はマクギーから通信機を受け取るだけです』
「それなら早く……、あぁ、いい。俺が取ってくるから待ってろ」
『え、い、いいですよ!荷物も置きに行かなきゃいけないので私が行ってきます!』

と、言ったもののボスは無言で私の手から紙袋を奪い取ると、そのまま行ってしまった。
それを見たアビーが隣で笑う。

『? どうしたの?』
「ううん、ギブスもメロメロにしちゃうんだなーと思って」

首を傾げる私にアビーは言った。

「エアが殉職する可能性はないってことだよ」





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