マグカップから漂う甘い匂いに思わず微笑みながら、窓の外から見える素晴らしい冬の景色を眺める。
ロンドンの街並みはまさにホワイトクリスマスで、イルミネーションの光がちらちらと降る雪に反射して綺麗だった。
どうせなら、こんな景色を1人じゃなく3人で見たかったのに。
親友であるジョンと最近知り合ったばかりのシャーロックは、今頃この街のどこかで事件解決の真っ最中だろう。
2人にとって家で外の景色を眺めるよりも最優先にするべきものが何なのか(特にあのシャーロックにとって)をよく理解している私は、こうしてお邪魔虫にならないように留守番をしていた。
ーーまぁ、仮に2人についていっても特にすることがないということが本当のところなのだけど。
テーブルにマグカップを置いてソファに座り直しながらブランケットを体にかける。
コチコチと響く時計の針の音が妙に心地良くて、いつの間にか私は眠りに落ちていた。




「ーーだな、君は」
「別にーー、……ただ僕の頭の中にはいつだってエアがいるんだ」
「……シャーロック、それはーー」

聞き慣れた声に目を開けると、そこにはジョンとシャーロックがいた。
どこからか引っ張り出してきたらしい椅子に2人はそれぞれ同じように足を組みながら何かを話している。
やっぱりいつものように推理の話なのだろうか。
ボンヤリとする頭と体をそのままにしながら小さく呟く。

『…ジョン、…シャーロック…』

ジョンは苦笑、シャーロックは相変わらず分からない表情で私を見て、私はヒラヒラと手を振った。

『おかえり』
「あぁ、エア。起こしてしまったね」
『ううん、気にしないで』

ソファから起き上がると同時にバサリとブランケットが落ち、そしてもう1つ何かが落ちる音がした。
シンプルにラッピングされた細長い箱に首を傾げながらそれを拾い上げる。

『これ…何…?』

ジョンが私の手の中にある箱を見て優しく頬笑む。
ゆっくりとリボンを解いて包装紙の中から箱を取り出し、そして開いた。
中から現れたシルバーの懐中時計に思わず息を飲んだ。

「僕とシャーロックからのクリスマスプレゼントだ」
『え…、ク、クリスマスプレゼントって…』

立ち上がったジョンに慌てて立ち上がると、彼は私を抱きしめてきた。

「エア…、君にはいつも感謝している。本当にありがとう」
『そ、そんな!わ、私も毎日24時間感謝してるよ!ありがとう!』

優しく笑ったジョンはそれから「それじゃ、僕はお先に失礼するよ」と言って自分の寝室へと帰って行った。

「僕の存在は無視か?」
『へっ!?あ、ち、違う違う!』

優雅に足を組んだまま座り込むシャーロックは明らかに不機嫌な表情をしていて、慌てて彼の隣に腰かけた。

『…えと、シャーロック?』
「……何だ。事件なら解決したし、ジョンも僕も怪我なんてしていないぞ」
『そ、そっか。それなら良かった』
「……」
『…クリスマスプレゼントを貰えるなんて思わなかった。ありがとう、シャーロック』

胸元に押し当てるように懐中時計を抱きしめると、隣に座っていた探偵さんは私の前に跪くように移動してきた。
それから頬を撫でてくる。

「エアが一番喜ぶ物は何だとジョンに聞かれたとき、真っ先に思い浮かんだのがこの懐中時計だった。アンティーク、時間、そして長持ちするという3つの条件が当てはまっているだろう?」

前に一度、シャーロックに「君の好きなものは何だ?」と聞かれたことがある。
それについての答えはシャーロックが言ったように、新しいものよりも古くて歴史を感じるアンティークと、貴重な思い出を刻んでいく時間、の2つ。

『でも、長持ち…って?』

私の問いかけにニヤリと笑った彼は懐中時計の蓋を開けて蓋の内側を私に見せ、そこに刻まれている銀の文字を復唱するようにシャーロックが読み上げた。

「Swear to love you forever…、エア。僕は君を愛している」

涙が溢れる私にキスをするシャーロック。
日付が代わる音が聞こえた。






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