『それでですね、キャ…じゃなかった、スティーブ。これはマカロンというフランスを代表する洋菓子なんです。たくさんの種類と色があるから、女の子には大人気なんですよ!』 「そうか…、確かに種類が豊富だな…」
最近出来た新しい喫茶店の中で向かい合わせに座る私と、あのキャプテン・アメリカであるスティーブ・グラント・ロジャース。 私たちが囲むのはピンクやグリーン、ブラウンやイエローといったカラフルな色をしたマカロン。 外の世界をあまり知らない彼の少しでも役に立てるなら、と思ってやって来たのだけれどーー。
「ねぇ、見て見て!あそこの席に座ってる人!」 「あ、あそこの人でしょ?ね!カッコいいよね!」 「うん!すっごくカッコいい!」
周りにいる女の子たちの視線がものすごくスティーブに向けられていた。 肝心な彼は初めて見たマカロンに集中しているらしく、彼女たちの視線には気づいていない。
「エア、食べてもいいかな?」 『へ、あ、は、はい!どうぞ!』
何故だか形見の狭い思いをしていた私に声をかけてきたスティーブに慌てて頷くと、彼は恐る恐るといった感じでブラウンのマカロンを口にした。 微妙な表情を浮かべるスティーブに思わず笑う。
『微妙…でした?』 「……あぁ。微妙、だな。チョコレートの味がするのは分かるんだが…」
すまない、と謝る彼に首を左右に振る。 近くを通りかかった男性のウェイトレスさんに声をかけた。
『すみません、コーヒーを頂けますか?』 「ブラックでよろしいですか?」 『はい、お願いします』
ニコリと微笑むウェイトレスに微笑み返すと同時にスティーブが私をジッと見つめていることに気づいた。
『? どうかしました?』 「エア…、君は彼と知り合いなのか?」 『え?彼って…、今のウェイトレスの?』 「あぁ」
コクリと頷くスティーブにまさか、と笑いながらミルクティーに手を伸ばす。
『全然知りませんよ?でも、この喫茶店ではすごく人気があるって友達が…』 「エア、どこか別の場所に行こう」
へ、と声を出す前にスティーブは私の手を取って立ち上がり、コーヒーを持って来ていたウェイトレスにすれ違いざまに代金を押しつけて喫茶店を出た。 女の子たちの残念な視線を背後に慌てて声をあげる。
『あ、あの、スティーブ!』 「どうせなら、君と2人だけで過ごしたいんだ。…ダメだろうか?」
顔を真っ赤に染めたまま口をパクパクと動かす私を見た彼は嬉しそうに笑い、私の手を握るスティーブはその手に力を込めた。
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