「なぁ、エアはどう思う?ペッパーにはこのドレスが似合うと思うんだ」
『断固反対!』
「な、何故だ!?最高にいいドレスじゃないか!」

最高級の品物と数多くのブランドを取り扱うお店の中で、私とあの天才ナルシストのトニー・スタークの声が響いた。
周りにいるセレブリティな人たちの視線がチクチク私に突き刺さるけれど、気にしない。
何てったって大親友のペッパーのパーティードレスを選びに来ているのだから。
ペッパーの将来のフィアンセとなるもう1人の大親友であるトニー・スタークが手にしているのは胸元がこれでもか!というくらいに開いている深紅のドレス。
似合わないわけがないけれど、それはあまりにも派手過ぎる。

『トニー、夜のパーティーじゃないんだよ?お昼に開かれるパーティーなんだから、もっとシンプルで清楚な色のドレスにしなきゃ』
「仕方ない。エアにはまだ早いがペッパーになら完璧に似合うと思ったんだが…止めておこう」
『……』

いちいちムカつく言い方をする人だ、と思いながら、店内に並べられているドレスを手に取る。
そこに表示されている値段は目を疑うばかりの値段で、トニーやペッパーとは違ってただの一般人である私にとっては手が届かないものばかりだ。

『これなんかどう?レモンイエローのワンピース』
「ダメだ。シンプル過ぎる」
『じゃあ…、これは?アクアブルーにラインストーンがついたドレス!可愛いよ?』
「清楚過ぎて話にならない」

じゃあ何がいいんだ!という少しの苛立ちの意味を込めてトニーの腕を軽く叩く。
ペッパーに内緒でプレゼントしたいから一緒に選んでくれ、と言われたから来ているのに、と思っていると、お店の店員さんらしき女性が近づいて来た。
まさに「セレブリティ」な店員さんだ。

「お客様、よろしければドレス選びのお手伝いをいたしましょうか?」
「ん、あぁ、頼む。私の親友のファッションセンスはちょっとズレていてね」

ギロリと睨む私に冗談だと肩を竦めるトニーには見えないように含み笑いを浮かべる女性の店員さんを見て欲しいものだ。
2人の後を追いかけるように歩いていた私はふとアクセサリーが並ぶケースの前で足を止めた。
雫の形をしたホワイトパールのシンプルなピアスを眺める。
やっぱり手が届かないものだった。

『可愛い…』
「中々いいんじゃないか?」

いつの間に隣にいたのか、トニーが珍しく同意してくれる。

『でしょ?可愛いよね、このピアス!こんな形のピアスを探してるんだけど、中々見つからないんだよね…』
「だったら買えばいい。…ほら、安いじゃないか」
『トニー、それ嫌味なの?私のお給料じゃ買えないって分かってて言ってるの?』
「おいおい、エア。いくら何でも僕はそこまで酷くはないぞ」

そう言ったトニーの手にふと視線を向けると、そこには私が最初に選んだレモンイエローのドレスがあった。

『トニー、それ…ペッパーにプレゼントするドレス?』
「勿論だ。君にじゃない」
『知ってるからいちいち言わないで。…あの店員さんが選んだドレスじゃなかったの?』

チラリと離れた場所にいる店員さんを見ると、彼女はどこか落ち込んでいるようだった。
私の肩に手を回したトニーが耳元で小さく呟く。

「君よりもファッションセンスが衰えていたんだ。…正直、この店には不釣り合いだと思うんだがな」

笑ってしまいそうになる私にウィンクをしたトニーが近くにいた別の店員さんを呼び、雫の形をしたピアスと一緒にドレスを購入する意思を伝えた。
ドレスとピアスをラッピングしていく店員さんから隣にいるトニーに視線を向ける。

『ペッパーにプレゼントするの?似合うと思うよ』
「これは君にだ、エア」

トニーが店員さんから受け取った小さなプレゼントを私の手に乗せてくる。
驚く私をトニーはきちんとエスコートしながらお店を出た。

「いつものお礼だ。こんなものじゃまだ足りないんだが…」
『そ、そんなことないよ!嬉しい…、ホントにありがとう!トニー!』

嬉しそうに笑う私を見てニヒルに口角を上げる彼は、何だかんだ言っても最高の親友だ。





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