現在わたしは体調絶不調である。胃がキリキリして心臓がどくどくいって頭が警鐘を鳴らしているかのようにガンガンする。

あぁ、苦しい。

胸を掻き毟りながら無音で呟いた。何が原因なのかはうっすらと解っているのだが、これを認めるのがなかなか難しい。
ふと部屋の戸をノックする音がした。胃がキリリと痛む。

「雨音。具合はどう?」

あぁ来た。
ヒナタの姿を見つけ、胃の心臓の頭の痛みが更に増す。
愛しい彼氏の姿をみつけて体調不良を起こすなど無礼極まりないことだと十分承知してはいるが、痛むものは仕方がない。
わたしがひとり葛藤しているとヒナタはたちまち萎れたような顔になってそそくさとわたしのすぐ側に寄ってきた。そして手に持っていたコンビニの袋の中身を広げあれこれ説明を始めた。
「胃が痛いなら温かいものを食べた方がいいからね、おでんを買ってきたよ。雨音、卵好きでしょ? 三つ買ったからね。あ、あとお腹冷やさないように呉服店にも寄って腹巻きも買ったんだ。恥ずかしくってもちゃんとつけるんだよ? バファリンも買ってきたよ。頭も痛いんだってね。この薬よく効くから…。あと……」
ヒナタが忙しなく喋り続ける姿を見て苦笑してしまう。嬉しいことは嬉しいんだけど…。
「それにしてもどうしたの最近。体調不良起こしてばっかりじゃないか」
「あぁ…うん」
ヒナタのおでこがわたしのおでこにくっついた。ヒナタの顔がすぐ目と鼻の先にあるものだから、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「何か原因があるんでしょ? ぼくに隠さないで、ちゃんとおしえて?」
「いや、あの、えーと…」
あなたの超が付くほどの過保護が原因なんです、とは言えず、曖昧に笑って誤魔化した。善意でやってくれてるんだもの。ヒナタの過保護が過ぎて少し周りと摩擦が起きてしまっても拒否はできない。
「なに? ぼくに言えないようなことなの?」
なかなか口を割らないわたしに苛立ったのか、不機嫌そうな顔つきになる。また胃がキリッとなる。
「あ、分かった。中山でしょ」
「え!?」
確信したような口振りだった。ヒナタの不機嫌そうな顔がたちまち厳しさを増す。
「あいつ、何かといって雨音に付きまとって困らせてるからね。ぼくがいるって分かってるくせにデートに誘ったり…。あれからまた何かされたんでしょ? 何されたの?」
「何もされてないよ…」
「嘘だよ。雨音を困らせる馬鹿は中山しかいないもの。正直に言ってよ。体触られたりしたの?」
「だから何もないってば!」
押し問答の末に口調が荒くなるのは自然なことだ。なのにヒナタは急に眉を下げて泣きそうな顔でうつ向いた。
「ちょっと、ヒナタ…」
「雨音が心配なんだよ」
不貞腐れたようにヒナタが呟いた。
「雨音可愛いから、きっと影で嫌なことされてるんじゃないかって…。こんなに体調崩すことだって、今までなかったし……」
「む……」
今度はわたしがうつ向く番だった。なんだか悪いことをしてしまったみたいだった。
「ヒナタは心配しすぎだよ」
急にヒナタに甘えたくなって、彼の肩に額を当てる。額からじわじわと温かいのが感じられた。
「ヒナタが心配するようなことは何もないから…。わたし、ヒナタ以外の男(ひと)に隙見せたりしないし」
あれ、わたし今物凄く恥ずかしいこと言ったような気がする。
「ほんとに?」
すぐ耳元でヒナタが囁くように聞いた。少し耳が擽ったい。
「もうぼくに心配かけたりしないでね。…雨音のこと大好きだよ?」
「ば……ッ」
一気に込み上がる照れ臭さと羞恥に咄嗟にヒナタから飛び離れる。
「何でそんな恥ずかしいことをさらっと……」
 手の甲で頬を押さえると随分と熱を持ってることに気付いた。ついでに緊張しすぎて息が荒れてきた。甘い。甘すぎる。なんだか今日は空気の糖度がやたら高いような気がする。もしこのまま糖度が上がり続けたら今日は手を握ったりキスしたりはたまたそれ以上いくかもしれない。ヒナタとのあれこれを想像すると心臓の痛みが激しくなって目眩もしてきた。
 そんなわたしを見ていたヒナタは驚いたような顔でわたしのことを上下舐めるように見てから、また睨み付けてきた。
「顔、赤いよ。なんか息切れしてるみたいだし。しんどいんでしょ? やっぱり何かあったんだ…。ねぇ何があったの? ぼくもう心配で心配で……!」
一気に捲し立て始めるヒナタ。わたしの気も知らないで…。振り出しに逆戻りした会話にわたしは遂に……。





僕を心配させないで
(全部大好きなあなたが過保護なせいよ!)



20100907


お題元:確かに恋だった


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