教室の窓から眺める夕焼けは絶景だ。特に、君がいるときは。
ふたりきりの教室には夏樹が鉛筆を滑らせる音と、僕たちの息遣いだけが聞こえる。
「ごめん、直ぐ書き終わるから」
「別に。ゆっくり書けばいいよ」
もっと夏樹と一緒にいたいから。…とは言えず、僕は目を閉じて夏樹と共有する世界の空気を感じていた。
「夏樹」
「…何?」
「僕、東京の大学行くから」
ぴたりと鉛筆の音が途絶えた。僅かに揺れていたあたりの空気が凪いだ。夏樹が日誌に顔を向けたまま、目だけを僕に向ける。
「…じゃあもう会えないじゃん」
「うん。…ごめん」
「最悪」
あからさまに不機嫌そうに夏樹が言った。返す言葉もなく僕はただ目を閉じる。
「好きなの、気付いてるんでしょ?」
「うん」
「それなのに行くんだ。やっぱり気持ち悪い」
「そんなことない」
そんなこと、ない。
もう一度繰り返して言う。瞼を開けて見た夏樹の頬は夕焼け色に染まっていて、とてもいとおしく思えた。
「きっと」
「何」
「会いに来るから」
「嘘」
「ホントだよ。僕も」
好きだから…。
口にすると急に切なくなって、喉が熱くなってきた。
夏樹の瞳から涙が溢れていた。夕焼けを反射して、オレンジ色の珠になっていて、とてもきれいだと思った。
僕は夏樹の頬を両手で包み込んで、夏樹の唇に自分の唇を重ねた。初めてのキスだった。
「泣かないで」
「そっちこそ」
気づいたら僕も泣いていた。こんなに好きで、こんなにも側にいたいのに、離れなきゃならないなんて。
太陽はもう西の彼方に沈みきってしまう。その前に僕たちは、悲しい哀しいキスをした。









夕焼け





20100905


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