目標確認。
 私の両眼は前方約十メートル先を三人の仲間と歩く、ひとりの男子生徒を捕えた。友達と仲良く談笑ですか。私はふふふと笑い声を漏らす。そうやって笑っていられるのも今のうちだぞ古賀。今からお前に死よりも辛い地獄を見せてやる…。
 私は袖を捲った。ふふふ。古賀の可愛らしいお顔が羞恥に歪む様が目に浮かぶわ。待ってろ古賀!せいッ!
 私はスタートダッシュをきった。体育祭のリレーでもこんな速く走ったことないぞってくらいのスピードで。すぐに古賀の後ろにつくことができた。私はさっと古賀のズボンのベルトに手をかけ、音速に近い早さでベルトを外しそして―――。思いっきしズボンをずらしてやった。 まわりの空気の循環が止まる。私は古賀のズボンに手をかけたまましゃがんでいた。顔を上げる。まぁまぁ可愛らしいパンツだこと。スボンをずらされた古賀の後ろ姿は自分の身に何が起こったのかイマイチ理解できていないご様子。隣の仲間たちも口をぽかんと開けて彼を見つめていた。にやり。私が勝ち誇った笑みを浮かべ、即座に踵を返し逃走したのと、古賀が絶叫したのはほぼ同時だった。


 *


「あんた、やりすぎ…」
 髪の毛を茶色に染めた目の前の友人が私にドン引きしている。しかし、そんなことは関係ない。私は古賀への報復を成功させることができたのだ。ふふふ。笑みが自然と漏れる。さぁ緑茶で勝利の祝盃をあげようか…。
「市川あああぁぁぁ!!」
 私がいい気分に浸っているところで、鬱陶しい声が邪魔をした。教室の入口に立つひとりの男子。怒りやら恥ずかしさやら嬉しさやらで顔がくしゃくしゃの少年、古賀だった。「おい待て市川こんにゃろう!"嬉しさ"って何だよ俺は露出狂じゃないぞ!!パンツ晒したって全然興奮しない!!」
 と、苦しい言い訳を並べる古賀は私の前へつかつかやってきた。私は笑顔を崩さない。真っ赤な顔した古賀を見るのがめちゃくちゃ楽しい。私がにやにやしていると古賀が私の机をバチンと叩いた。
「どういうことなんだよさっきのは!何であんなことしたんだよ!」
「んー?報復の為」
「報復!?…あっ!お前まさか前に俺がフッたことまだ根にもって…!」
「違うわ!もっとよく考えなさい!私をフッた以外にズボンずらされるだけの大罪を犯したでしょうが!」
 古賀は考える。クラスのみんなに私が古賀にふられたことが知れてしまったけどまぁいい。さぁ思い出しなさい古賀!あなたが犯した罪を!
「わかりません」
「古賀てめえええぇぇ!!」
 殴りかかろうとした私を友人が羽交い締めにして止める。離せ友よ!私に古賀を殴らせろ!「えぇ…っと、俺なんかやったけ?全然わかんないんだけど。マジで…」
「何だとチクショー!前私をめたくそに傷付けたくせに!」
 そこで私は語り出す。


 *


『ごめん。俺、市川とは付き合えないよ…』
 渾身の想いを込めての告白だったが、彼には届かなかった。目を伏せ、申し訳なさそうにする古賀。私は泣きそうになりながらも、震える唇で問うたのだ。
『私の何がいけなかったの?』
 私は彼に聞いて、駄目なところを直してもう一回リベンジしようと思ったのだ。古賀が、好きだから。私は古賀の言葉を待った。そして、暫くして古賀は。
『だって市川、ムネ、ちっちゃい』
 私は絶句した。いや、するでしょうよここは!『言っちゃなんだけど市川って…貧乳だよね。最近はちっちゃいのがブームらしいけど俺、やっぱ大きい方が好きだし…。ばいーんって感じのがいいなぁ。うんうん。…てか、市川まじでちぃせぇ!なにそれハンバーガーよりちっちゃくね!?まじうけるー』


 *


「そら酷いわ」
 友人を筆頭に、いつの間にか古賀を囲んでいた女子たちが頷いた。たじろぐ古賀。ふふ。いい気味だ。
「いや、だってそれは個人の趣味によるし…」
「だからって小さいとかって馬鹿にしなくてもいいじゃない!」
「いやっ、えー…」
 暫くあーだうーだ言っていた古賀だが「でもズボンずらすのはやり過ぎだ謝罪しろ」と開き直ってきやがった。
「取り敢えず今ここで土下座しろ!そんでもってハンバーガー食わせろ!」
 古賀の言葉に周りがざわつく。古賀、なんて男だ…!そして私、何故こんな奴に惚れた!?
「ふざけんなよ!なんで私があんたにマック奢ってやんなきゃ…」
「いやいや」 古賀が手をふる。はい?と首を傾げた私の胸を奴はそろっと指差した。
「俺が食べたいのはマックじゃなくて、市川の――」
 十八禁ばりの妄言を発した古賀がこの後、うちのクラスの女子たちにフルぼっこにされたのは言うまでもない。



give me hamburger!
(大きかろうが小さかろうがいただけるものはいただきます)





20091222






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