※擬人化注意






 この広大で暗い宇宙。宇宙に端があるのかどうか、それは月の息子にも、太陽の娘にも分からない。まして地球の息子に分かるはずもない。ただ一つ分かることと言えば、無限の宇宙の中、きみときみとぼくが廻り会えたことは何億分の、いや、何兆分の一の奇跡なんだということ。

 一日の殆んどを、冷たい月(ほし)の上で過ごすぼくの趣味は約三十八万km先の地球を眺めること。ぼくと地球の付き合いはもうずーっと、それはもう気が遠くなるほど前から続いている。時には遠くから、時には近くから、ぼくたちはお互いを美しいものの対象として見つめ合ってきた。ぼくは約三十八万km先から彼の地球(ほし)の繁栄、堕落、再繁栄を見守ってきた。やがて出現する、彼の地球(ほし)を支配する生物。何て醜く高慢なのか。時折彼の地球(ほし)から立ち上る黒煙を見る。その度にあぁ生き物はなんて愚かなのだろうと思う。膝を抱えて煤り泣く彼を見ると尚更。 最近では彼の蒼く美しい髪がどんどんくすんでいくのが、彼の緑の瞳が色を失っていくのが、よく見られる。


 まだおわりたくない。


 地球は緑の瞳でそんなことをぼくに真っ直ぐに訴えてくる。


 ごめんよ。ぼくにはどうすることもできないんだ。ゆるしておくれ。


 こうして膝を抱えるしかできなくて、遠くからきみを見守ることしかできなくて、今日も今日とて蒼の髪が黒くなってゆく。ぼくは足首に添えていた右手で自分の前髪を触ってみた。今日のぼくの髪は真っ黒け。太陽が遠いから。ぼくは彼女がいなくちゃ輝けない。いつも紅く燃え盛る太陽(ほし)。地球は太陽に背を向けている。そうしなくちゃ眩しくて目がおかしくなってしまうから。ぼくも彼女を直視することができない。彼女の燃えるような赤髪はとても美しいのに。


 月よ。ぼくたちはいつまでかのじょのそばにいられるんだろうね。

 美しくあたたかく、ぼくらをひかりで満たしてくれる彼女に地球とぼくは恋してる。彼女の紅い髪に触れてみたい。彼女に跪いて、彼女のあたたかい手にキスをおくりたい。でもそれはできなくて。背中に彼女のひかりを感じ、彼女の与えてくれるひかりに口付けるのがぼくたちにできる精一杯だった。


 地球よ。ぼくたちはいつまでかのじょのそばにいられるのでしょう。


 地球の問いをぼくは殆どオウム返しする。
 広大で暗い宇宙の、隅か真ん中か、そんな場所でぼくたちは、ぼくたちの破滅のときを膝を抱えてまっている。



太陽






20091222



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