※微お色注意





 仰向けに転がる彼女に馬乗りになってぼくは彼女の白くて細い喉に手をかけた。これから初めてひとを殺す訳だけれどもぼくの心には罪悪感だとかそういう都合のいい感情はこれっぽっちもない。
 彼女はそれこそ黒真珠のようなうつくしい瞳でぼくをみる。少しだけぼくもみつめてふと彼女のくちびるに視線をずらした。口紅をぬったように紅い唇だけれど化粧とかいった類のものは特にしていないらしい。さっき指先で唇をなぞってみたけどなにもなかった。
 それにしても彼女はきれいだ。白い肌、流れるような黒髪、牡丹のように紅い唇、桜のような桃色の頬。どれも黒いセーラー服によく映える。今でも充分にうつくしいのにおとなになったらどんな美女になるのだろう。将来が楽しみだけれども彼女に将来はない。ぼくが彼女を殺すから。
 ところでぼくが彼女の殺害に至った経緯だけれども。彼女はぼくに恋情を抱いているらしい。 こんなにきれいな彼女が、よりにもよってぼく。男としては嬉しい限りでしょう。そうだと知ると今まで高嶺の花だとおもっていた彼女が急に安易に手の届く安物だとおもえるから不思議だ。彼女はぼくがすきなのだから、ぼくが彼女にたいして何をしたって彼女がぼくを責めるようなことはけっしてないのだ。ぼくが彼女の肢体のどこをどういう風にいじくりまわしたって彼女は百合のような笑顔で笑って赦すだろう。或いは悦ぶ、か。
 ふん、とぼくは鼻で笑った。ぼくが彼女の殺害に至った経緯。この彼女、ぼくの前に突然現れ笑顔でスカートをまくりあげ惜し気もなく白い太股を晒けだしたのだ(実際はお姫様がするようにスカートの裾を摘んでのお辞儀だったのだろうけれどぼくにはそう見えた。思春期の少年フィルターである)。そして鈴のような声で誘うように囁いた。


「どうぞわたしの喉を絞めてくださいな」

 可愛いお姫様のたっての願いならば仕方のないことでしょう。男は美人の前では格好をつけたがる生き物なのだからできないことがあることなんて知られたくない。たとえそれがひと殺しであっても。
 指先に力を込めると彼女の喉がぎゅうぎゅうと音をたてる。いままで余裕かましてた彼女が眉を寄せた。あえぐ。やっぱり苦しいんじゃん。

「しにたいの?」

 聞くつもりはなかったのにぼくの唇が勝手に喋った。彼女の黒真珠がゆれた。赤い唇の端がきゅっとつり上げられる。妖艶でなんてうつくしい。ぼくが喉を締め付けてるせいでうまく声を出せないらしい。鈴の音にはほど遠い老婆のようなしわがれた声で「いいえ」と否定した。ならどうして。彼女は言った。自分のだいすきなひとに最期を看とってほしいじゃない。
「なるほどね」
 ぼくはすっと彼女の喉から手をひいた。そして目を丸くした彼女の唇にぼくは自分の唇を重ねる。 甘い味がした(ような気がした)。彼女の唇を舐めたりくわえたりしてあそぶ。彼女は幸せそうです。ぼくの両の手は彼女の首を絞めるというしごとを忘れて彼女の髪をなでた。
 愛されるよりもはやく殺してほしい?でももう少し待ってよ。あとでちゃんと殺してあげるから。








別に死にたいわけじゃない
(貴方に殺されたいのよ)






お題をおかりしました:消失論


20091203





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