「もう、遅かったんだよね」

ヒロトはひたすら静かに少し離れたそこで笑っていた。優しい目には空しか映ってなくて、俺は寂しかったけど暖かい気持ちでもあった。
何か言おうとして開いたヒロトの口は、僅かに掠れた声を洩らしてそのまま。少し、空を煽いだ。

「昔、雨が降ったらこうやってぽかんてしなかった?」
「───雪は食べようとしたな」
「つららなら食べたよ、風邪引いた」
「腹を下さなくて良かったな」

ねぇ源田くん、とヒロトがこちらを見もせず語りかける。風が吹いた。揺れた髪の毛がくすぐったくて、今なら首ごと切ってしまいそうだった。

「まだ死んじゃだめだよ」
「…死なないさ」
「じゃあそんな怖い顔しないで、辛くなるよ」

誰が、とは言わない。いつのまにかヒロトがさっき現れたばかりの一番星を手にとって戻ってきた。

「お星さまがね、元気出してって」
「美味しい、のか」
「ねぇ源田くん。味なんて結局は個人で決めるものなんだよ」
「俺には雨が不味かったように、か」
「そう。俺には雪が美味しくなかったように」

ふふ、と軽く笑いあって星を受けとる。グミのようでチョコレートのようなそれをかじると、しょっぱかった。
あまりのしょっぱさに胸や喉がじくじく痛む。ぼろんぼろん久しぶりの涙が出てくるだけだ。

「すご、く、しょっぱかった」
「そう」
「…ッヒ ロトは…?」

止まらない嗚咽と涙(あとは汚いけれど鼻水)で喋るのすら、辛くて。服でぐいぐいと痛いくらいに拭っていたから、その時ヒロトの顔が見えなかった。ひどく落ち着いた、いや落ち着かせた声でぽつりと言った。


「喉に刺さって、死んじゃった」
「…ヒロ、ト だめだ」
「うん…ごめんね源田くん」

でも死ななくて良かったなんてふにゃりと笑われたら、怒るに怒れなくて、仕方なくってその肩に寄りかかってやる。

(おもいよ)(俺がいる証だ)
(………本当に君は優しい人)




::優しい子たち


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