「生ひとつ」
大学生になった知念くんは俺がいうのもなんですが少しまともになっていて、ピンセットは持ち歩いていなかったし前髪の色も黒くなっていた。「シャンプー、5回やってますか?」「もう2回しかやってないんどー」「朝夜ですね?」「おー」「シャンプーは」「黒なまこさあ」「変わってないですね」「すぐには変わらんさあ」よかった。なぜだか安心して俺はウーロン茶を飲む。「えーしろー、悪いなあ運転させて」今日は俺がクルマで知念くんを送り届けるというミッションがあるのだ。「俺に構わず頼みなさいよ、飲み放題ですから」「生追加で」「知念くん、結構いけるほうですか」「わんはそうだと思ってる」ということはそうでもないのだろう。まあ俺は高校での生活とか、本土へ行った凜たちの近況についてとか、ゆっくり話せればそれでいい。ふたりだけ、これはプチ同窓会なのだから。何を飲みましょうかね。

◇◇◇

「えーしろー、バレンタインデーのこと覚えてるか?」「ああ、バレンタインキッス事件」「あの時はゆーじろーに悪いことしたさあ」甲斐くんだけじゃないですよ、なんて。密かに甲斐くんと知念くんに想いを寄せている女子がこぞって俺に『彼らは“そっち系”なのか』と尋ねてきた。俺は保護者じゃないですから、とだけ返していたのだが。「それで、黒糖の味はしたんですか」「それが覚えてないんどー」「あらら」もったいない。甲斐くん、ご愁傷様です。「だからもう1回確かめるさー」「ちねんくん?」

◇◇◇

個室の居酒屋でよかったですね、なんてことも言えるわけなかった。スキンシップなのか、興味本意なのかは判らない。判らないけれど、その行動は中学時代、他の人にしていたことと同じで、俺がきみを好きなことにも気づかないところもそのままで、少し嬉しいような、寂しいような気がした。助手席ですやすや寝息を立てるその顔も、未だに気持ちに整理がつかない俺も、あの頃と全然変わっていなかった。


2014.04.04

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