柳生くんはわたしでもわかるように丁寧に説明してくれた。まとめると、実際に車に跳ねられて、そのまま車は逃げようとしたのだけれど、被害者である柳生くんの容態が悪ければ良心が痛み戻ってきてくれるのではないかと思い持っていた血糊やらで過剰なまでのデコレーションをして気を引こうとしたらしい。それで尚更驚いて犯人は逃げてしまった、と。「目撃者がいないと思って挙行したのですが、あなたに見つかってしまいました」「ごめんなさい」「謝らないでください、名字さんにはご迷惑をおかけしました…」しゅんとした柳生くんを見るのははじめてだった。そうか、この紳士も完璧な人間じゃないんだ。慰める方法はわからないのでポジティブなお話をしてみよう。「でも、そのペテンってやつ、すごかったよ。わたし本気で心配しちゃったくらいだから。それで海原祭はスリラーやろうよ」「心配を無下にしてしまって本当に申し訳ありませんでした…この事は」「ふたりだけの秘密、だよね。わたし、柳生くんと秘密が作れるだなんて思ってなかったからちょっと舞い上がっちゃったよ」「本当、ですか」柳生くんのきっちりと閉じられた口が少しだけ、へにゃんとひらく。脱力なのかわからないけど、気持ちが楽になったとかだったらいいな。柳生くんはわたしの両手を掴み、「あの場に居合わせたのがあなたで、本当によかった」と優しく言ってくれた。さらに(かは定かじゃないけれど)元気づけるべく!「これは運命だよ、きっと!柳生くんが跳ねられても生きているのも、わたしに逢ったのもね!」なんて、ちょっと演技っぽく言ってみる。
「あなたは、運命を信じるのですね」「都合が良い運命には乗っかろうと思ったの」「それでは、これも何かの縁、いいえ、運命ということで」わたしの手を取ると柳生くんはそれにキスをした。絵本で見た王子様のように。演技っぽいけれど、たぶん柳生くんは素でこんなことをやってのけてしまうのだ。目の前に現れたのは白馬に乗った王子様じゃなくて、轢かれたゾンビのクラスメイト。でもこの人が王子様なんだって、わたしは信じる。

「私とお付き合いしていただきませんか」





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