06

「ししし、お前もこいつらの仲間?」




とある屋敷の一室で首筋にあてがわれるナイフ
私は今まさに絶体絶命の危機に陥っていた

私がここへ来た時には既に血の海だったから、面倒なことに巻き込まれる前にお暇しようとした所
彼にナイフを突きつけられた


そしてこの人が言う"こいつら"とは私たちの周りで血を流して倒れるこの屋敷のファミリーの人達のことだと思う。
どうしてこうなった…とにかく早く誤解をとかないと切れ味の良さそうなナイフの餌食になってしまう




「…ここのボスとお話しに来ただけでこのファミリーとは無関係よ」

「まあ、なんでもいいや」




どうせ殺しちゃうし、なんてふざけた事を言いながらナイフに力を入れる彼

ちょっと待って、と言葉を発するよりも先に首に小さな痛みが走ったその瞬間、さすがに不味いと隠し持っていたトンファーではき飛ばせば相手の彼は素早く飛び退いて私と距離をとった



「お前戦えんじゃん」

「自己防衛よ、戦うつもりは無い
関係がないのに殺されるなんて冗談じゃないわ」




私はファミリーとして同盟の話を断りに来ただけなのに…

ししし、なんて変な笑い方をするし頭にティアラが乗ってるし武器は小さなナイフ
だけれど漏れる殺気から察するに彼は強い

どうしてマフィアってこうも個性が強いの?



「こいつら弱くてつまんなかったんだよな、お前王子と遊んでいけよ」




私の返事も聞かずに無数のナイフを構える
しかも自分のことを王子って、裏社会にいる人間は個性豊かな人間が多いけれど彼もまたそのうちの一人らしい、相手にしないでおこう。




「話す相手がいないのなら帰るわ」




さよなら、と踵を返すと同時に真横をナイフが通り過ぎて行った




「ちょっと。
自分勝手がすぎるんじゃない?」

「だって俺王子だもん」



理由になってない。
けれど私も久しぶりの強そうな相手にわくわくしない、と言ったら嘘になる
最近戦えてなかったし…虹の炎さえ使わなければいい話だから…




「少しだけならいいか」



トンファーを構えれば彼はまた笑った






私たちの戦いに水を差したのは彼の着信音
1度なら兎も角"出るまで鳴らす"と強い意志を感じるほど鳴り響く音に苛立ちながらも画面をタップする



「なんだよ」




う"おぉぉおい、離れていても聞こえる怒鳴り声
詳しい内容までは聞こえてこないけど、早く帰ってこいって話をしてるのはわかった

…私も少し長居をしすぎてしまった、当たりに散った血が少し乾き始めている




「戦いはおしまい」

「っち、いい所だったのに
あんたどこのファミリー?」

「知りたいのなら自分から名乗るものじゃない?」




そう微笑めば彼はまた笑って




「俺はベルフェゴール、覚えとけよなっ」




ベルフェゴール…聞いたことがあるような…



「また会おうぜ」


彼は割れた窓から帰って行った

ああ、疲れた…
子供みたいに我儘で気ままな人

出来れば会いたくないけれど、また戦いたいなとは思う




あれ、…そういえば私名乗ってないな。






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