05

風紀財団の所有する建物の近くはそれなりに栄えていて目を引く雑貨屋さんやお洒落なカフェが並んでる

磨かれたショーウィンドウの中には目を引くケーキが幾つも並んでいて…
あ、こっちの手作りクッキーも素朴な感じで好き


でも向こうの通りのカフェも良さそうな感じだったなあ
いっそ全部のお店のケーキを買って帰ってパーティーでも開く?

いや、だめだめ。
前もそう思って買って帰ったら"こんなに大量に食べられるわけない"って怒られた



学ばない人間だな、と自分に愚痴を零していると私を呼ぶ声が聞こえた、気がした
すぐにあたりを見回したけれど知ってるような人は誰もいない




「…幻聴?」



あの声は…。

襲撃が一段落してからは休めてる方だと思ってたけどまだまだ疲れとストレスが溜まってるのかも

…よし。今日はカフェに行くのはやめて、呑もう
飲んでストレス発散!お酒でストレス発散は大人の特権だもの


たまには1人酒も楽しいよね








BARにこだわりは無いからどこでもいい、なんて適当に選んだお店だったけどとてもいい雰囲気だったから今日はツイてる



「どうぞ、」

「ありがとう」


頼んだのはバハマ、
ラムベースのスタンダードショートで、トロピカル風味。

少し酸味が強めだけれど炭酸が入ってないから飲みやすくて好き



一口飲んで、さっき聞いた声を思い出す


幻聴が聞こえた事も問題だけどそれよりもその声が綱吉のものだったことが問題ね

彼の事はもうとっくに忘れたと思っていたんだけど…
同窓会で久しぶりに会ったから思い出しちゃったかな


声も、笑顔も、胸の痛みも

あの頃に置いてきたもはずの物全部。




「まだ初恋引きずってるってどうなのよ、私…」




結婚するかしないか、なんて事を決めてるわけではないし特別子供が欲しい訳でもない
だけど、この年になってまだ初恋を引きずってるなんて結婚どころかそれ以前の問題の気がする。








酔わないように気をつけながら何杯目かのカクテルをちびちびと呑んでいると隣に人が座った


混んでないんだからカウンター席に座る私の隣じゃあなくてもう少し離れたところに座ってもいいのに、なんて心の中で溜息をつきつつもあまり気にしないように棚に綺麗に並べられた酒瓶を眺める




「かりん」





…あ、また幻聴。
今度はさっきよりもはっきり聞こえた




「かりんってば、」




ぽん、肩を叩かれたからそちらを目を向けると
隣にはスーツを着こなした綱吉

綱吉?




「あれ、もう酔っちゃった?綱吉が見える…」




目を細めてみても、擦っても目の前の綱吉は消えない

幻聴の次は幻覚って、私相当キてるんじゃない?




「幻覚じゃないよ、本物」




そう言って可笑しそうにクスクス笑う彼

すすき色した柔らかそうな髪に触れようと手を伸ばせば軽く避けられた、ショック

と思ったのもつかの間、今度は綱吉が手を伸ばして行き場をなくして宙に浮いていた私の手を掴んだ






「触れた…本物なんだ」

「やっと信じてくれた?」

「なんでイタリアに…?」

「本当に酔ってるの?
俺イタリアに行くって、大学の時に…」




あぁ…そうだ、そっか。
綱吉と恭弥は一緒にイタリアに飛んだんだっけ
だからこの辺りに住んでいてもおかしくないのか




「こんなところで会うなんて凄いね」

「かりんがいる気がしたから」




私がいる気がしたから?




「なんてね。
たまたまだよ、入ったらかりんに似た人がいるなって思って隣に座ったらかりんだったってだけ」




凄い偶然だよね、と笑う綱吉はマスターから受け取ったグラスを一気に煽った

それすごく強いやつじゃ…




「偶然…」



それにしては、まるで私がいるのが分かってたみたいな反応だったように見えたけど

…まあ何でもいいか、綱吉に会えたんだもん



「綱吉はここら辺に住んでるの?」

「ここら辺って訳でもないけど遠くもないかな、
此処は初めて来たけど、いい所だね」




そう言ってグラスを傾ける綱吉は凄く様になってる

ーーって…ちょっと待って。
よく考えてみれば今日の私すごくラフな格好してる
ああ…、どうしようもっと可愛い格好してくればよかった

でも、だって恭ちゃんに会うだけのつもりだったから…




「かりんは1人旅?」

「あ、え…ううん。
私、イタリアに住んでるの。ここら辺じゃないけど」



へらり、と笑って見せれば彼の瞳がぐぐぐっと大きくなった



「なっ、どうして言ってくれなかったんだよ…!」

「海外に住んでるって言ったでしょ?」

「他の国とイタリアとじゃ訳が違うだろ」

「ごめんね、会える距離に住んでるなんて思ってもなくて…」




だから言わなくてもいいかなって思ってた、と伝えれば彼は一気に脱力した

会える距離に住んでるなんて思わなかった、って言うのはたしかに本当だけれど会える距離に居たとしてもイタリアじゃ会えない
不用心に会ってるところを敵ファミリーに見られたら綱吉が目をつけられるかもしれないし

そんな事になったら、私は…。





「そっか、イタリアに住んでるんだ…」




どこか噛み締めるように呟いてゆるりと笑ったその表情がなんだか色っぽくて私の知ってる綱吉じゃない気がして少しだけびっくりした。



沈黙が流れる

何か、話題話題…


そう言えば、なぜ綱吉と恭弥が一緒にイタリアに行くことになったんだろう



「綱吉たちは…」




風紀財団の一員なの?
そう聞こうと思って、口を噤む。

いくら恭弥が綱吉達に興味を示していていたとはいえ風紀財団は並中の風紀委員会を基礎に作られてるんだからきっと違う

と、なるとどうして?まあ…知った所でどうなる訳でもないか




「やっぱりなんでもない」




それから暫く呑んで、少し良いも回った頃
これ以上酔う前にお開きにすることになった



「これからどこかに行くの?」

「ううん、用事はもうおしまい。
このままうちに帰るよ」

「送っていこうか?」

「何言ってるの、綱吉もお酒飲んだでしょ」

「いや、迎えがー…」




いくならんでも悪いよ、と言えば迎えは隼人だから気を使うことは無い、なんて言うけれど迷子の1件で既に貸しがある私としては気を使う。
それに同窓会の日私タコヘッドなんて呼んじゃったもの、少し気まずい気がするもの



「ふふ、ほんとに大丈夫だから。気をつけて帰ってね」

「それはこっちのセリフだよ」




まだ仲の良かった頃みたいな、また明日って感じの軽い別れ
約束だってしてないのにね。





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