03

同窓会から数ヶ月、
最近は抗争も無く平和な日々に逆戻り

逆戻り、とは言っても全てが抗争前のままという訳には行かず
立て続けに抗争に巻き込まれ、襲撃され…それを全て潜り抜けているうちに裏社会で少し名を馳せてしまったアルダファミリーの元には同盟を組む話やパーティーのお誘いが増えた。

けれど同盟を組まないのがアルダのやり方、という事で例外なくそれに則り同盟の話は一様にお断りする代わりにパーティーには積極的に出席するようにして周りのファミリーとの関係を保つようにしている


本音を言ってしまえば、多少面倒。
だけど小さなファミリーが変に一匹狼を気取っていると群れから浮いて狙われやすくなるから中小ファミリー同士仲良くやっておかないと

ほら、ライオンや狼も群れから外れた獲物を狙うって言うでしょ?
私たちは獲物になりたくはないもの。




「お嬢様、到着しました」

「運転ありがとう」




運転手役を引き受けてくれた幹部、運転手兼非戦闘員扱いの私の護衛のために来てくれた


綺麗なドレスを身に纏い、煌びやかな宝石を身に付けてその下には真っ黒な拳銃を忍ばせる

会場に響く媚びた声に、下品な笑い声
どす黒く渦巻く欲を掻き消すように輝くシャンデリア


ああ、同窓会が懐かしい…
漏れてしまいそうになるため息を飲み込んで、会場をゆっくりと見回す

パーティーなんだから当たり前なんだけど何処をみても人、人、人…




「思ったより多いね」

「本日招待されているファミリーは約50
来ているのはボスと後継ぎか側近…ってところですからざっと150人ってところですかね」

「150人…」




今からそれに近い人数に挨拶まわりをしなきゃならないなんて…


あーあ、帰りたい。



テンション急降下の私の耳に口を寄せて
「最近は結婚相手を探す奴らも多いみたいですよ」
と教えてくれた。

「なるほど、婚活パーティーだ…」




それなら私もいい人探してみようかな。



なんてね。
そんなことは置いておいてとりあえず主催者に挨拶…と思ったけれど姿が見えない
きっとホールの中心に出来ている人だかりのこれまた中心にでもいるのだろう。


今回招待されたのは、私。
アルダファミリーのなかでもあまり知られていない、そして重要視されてない私。

というのもこのパーティーの主催者が私の知り合いだから



まあなんにせよこれじゃあ挨拶は無理…
あの人だかりの中に入っていく気力はないわ

彼への挨拶は一旦諦め、
私と同じくお呼ばれしたファミリーへの挨拶に精を出していると今日の主催者が私の姿を見つけて走り寄ってきた

彼の昔と変わらない笑顔につられて私も作り笑いをやめる




「やーっっと来てくれた!
何回誘っても来てくれないから悲しかったのよ?」


「ごめんね、最近忙しかったの」




今日は中学の同級生でもあるロンシャンの、トマゾファミリーが主催するパーティー
私の数少ない裏社会でのお友達。

彼は同窓会には来てなかったし、私がパーティーをことごとく断っていたこともあって本当に久しぶり

…だけれどクラスの誰よりもあの頃から変わってない
テンション、見た目、部下、全てを含めてあの頃のまま





「ロンシャンは相変わらずって感じだね」


「そう言うかりんちゃー…むが」




咄嗟に近くのテーブルにあったケーキをロンシャンの口へと放り込むと入りきらなかったクリームが絨毯に落ちた






「今はアルダファミリーのルーナなんだから」




ね?と圧力をかけて微笑めばロンシャンは口にケーキを頬張ったまま刻々と頷いて見せた


質のいい絨毯を汚してしまったけれど
そうしてまでもこの場で私の名前を呼ぶ事を阻止したかった
殆どアウトだったけれど周りに誰もいないからセーフって事よ。


暫くロンシャンと話していたけれどまだ挨拶が残ってるからと彼は人の渦の中に戻っていった
主催のロンシャンが離れると同時に私に近づいてくる姿が2つ…

胡散臭い笑顔を貼り付けて歩いてくるおじ様と
自信たっぷりな顔をした私と同い年くらいの男性


わあ、嫌な予感がするわ。




「ルーナ」

「お久しぶりです、あー…」




この人はどこのボスだっけ
まずいな、全然覚えてない




「こっちは息子のシャンスです」

「はじめまして
アルダファミリーのルーナと申します」

「よろしく、綺麗だね」




その言葉とともに髪を梳かされてゾワリと背中に何かが走った

隣にいるシルバーアクセサリーを沢山つけた自己紹介もしない男性はどこかのボスの息子らしい





「うちの息子はつい先日留学から戻ったばかりで…まだ少し頼りないところはありますが時期ボスに、とも考えておりましてな。
ぜひどうでしょう?」




どうでしょうって言われても、どうでしょう…?
あなたがいいのならいいんじゃないでしょうか。



「いいと思います」

「それは良かった」




ぎこちなく返せば満面の笑みで返された


そこでふとさっきの言葉が過った

婚活パーティー。







「向こうではー…」




永遠と続く彼の自慢話にそろそろ頭が痛くなってきた頃
パウダールームにと微笑みながら彼の隣から離れることに成功した。


一刻も早く外の空気を吸いたい
誰にも捕まらない様に急ぎ足でバルコニーへ向かう


人の熱気と香水の香りに食べ物の匂いが混ざったパーティーホールの匂いは未だに慣れない
慣れろと言われても生理的に受け付けないのだから、無理なものは無理。




「…」




やっと1人になれると思っていたんだけれど立派なバルコニーには先客がいた、
太陽が出ている訳でもないのにキラキラ輝く金髪に落ち着いた鷲色の瞳

王子様ってきっとこんな感じ何だろうなとぼんやりしてしまうくらい綺麗な人
このパーティーに招待されてるってことは王子様なんかじゃなくてマフィア関係の人間何だろうけど




「はじめまして、お嬢さん」




鷲色の瞳を柔らかく細めた大人っぽい顔に私の思考は一気に現実世界まで戻された

恥ずかしい…見つめたままぼんやりしてた…。




「申し遅れました、アルダファミリーのルーナと申します。」




感情を外に出さないように気をつけてながらマニュアル通り、というような挨拶をすれば金髪の彼と黒髪の彼は少しだけ目を見開いた

アルダを知ってる様なその反応に少しだけ警戒してしまう、最近過敏になっちゃって…。



「俺はキャバッローネファミリーのディーノだ、こっちは部下のロマーリオ
よろしくな」




キャバッローネって、今度は私が目を見開く番だった
まさかボンゴレの傘下の巨大マフィア、キャバッローネファミリーのボスと顔見知りになるなんて。

ロンシャンってば結構顔が広いのね…




「ディーノさんに、ロマーリオさん。
よろしくお願いします」




「最近話題の謎に包まれたファミリーの一員っていうからどんなやつかと思っていたがこんな可愛いお嬢さんだったなんてな」


「謎に包まれたファミリーだなんて、そんな
謎も何も無い、ただ抗争に巻き込まれてる不運なファミリーですよ」


「聞いてるぜ、最近は大変だったんだろ?
噂によると向かってきたファミリーは漏れることなく潰したって聞いたが実際はどうなんだ?」


「ええ、それはもちろん。
数が少ないからといってなめられては困りますもの」




それまでの優しげな雰囲気とは打ってかわり、ゆるりと口元だけ緩めて微笑むかりんにディーノは底知れぬ恐怖を覚えた
まるで敵に回してはいけないと本能が告げているようなそんな感覚がする。





「とは言っても私は参加してませんが…」




戦闘向きではありませんので、と小さく呟く




「ルーナちゃーん!」




どこか緊張感の漂う空気を壊したのは会場の中から自分を探す声
先程とは違い今度は間違いなくルーナと呼んでくれている




「ロンシャン、バルコニーよ」

「あとちょっとで挨拶終わるからまだ帰らないでねン☆」




姿は見えないけど声だけ聞こえる、
忙しそうで主催者は大変だなぁ




「ルーナは日本人か?」

「はい、育ちも殆ど日本で大学卒業を期にイタリアに来たんです」

「俺も昔はよく行ったもんだぜ」




彼は懐かしむように眼を細めた

どうやらディーノさんもロマーリオさんも日本語はペラペラらしい



「日本には弟分や手のかかる弟子みたいなヤツがいたんだ。
今じゃそいつらもこっち(イタリア)で立派なマフィアだ」




本当にその弟分や弟子が大切なんだって伝わってくるような優しい瞳

この人の事はまだあまり知らないけどきっと素敵な兄貴分だったんだろう
私にはそんな人いなかったから少しだけ…、



「…少しだけその人達が羨ましいです」




つい、本音が溢れてしまった
はっとしてディーノさんの顔を見上げると彼は驚いたように少しだけ目を開いてからやっぱり優しく笑った



「ルーナは可愛いな」



そう言いながら少し乱暴に私の頭を撫でる
折角パーティー様にセットしたのに崩れちゃう!



「なんだボス、嬢ちゃんに惚れたか?」

「バカちげぇよ
ま、何かあったら頼ってくれな。
少しは役に立てると思うぜ」




彼の太陽みたいな笑顔につられて私も微笑んだ







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