prolog
夕日の暖かい光を受けて地面に長い影を落とす大学からの帰り道
私が一人暮らしをしているマンションの前によく知る人影があった
その特徴的な髪を風に揺らしながらスマホの画面に視線を送るのは…私の幼馴染。
幼馴染、と言っても大学に入ってからはお互いに一人暮らしを始めたこともあってめっきり会わなくなったし連絡だってあまり取り合ってなかったんだけど…
そんな彼がどうしてここにいるのか、どうして家を知っているのか
頭の中で考えたって答えは出てこない。
そもそも本当に私を待ってるのかすら怪しい
もしかしたら、このマンションに友達が住んでるのかも
もしそうだったら…なんて声をかけるのが正解?
彼はぼんやりと立ち尽くす私の気配に気がついたのかゆっくりと顔をあげて、
「かりん」
ふわりと笑った。
小さい頃から変わらない柔らかな笑顔
「久しぶり、綱吉」
「おばさんから住所を聞いて来たんだけど合ってるか不安で…会えてよかった」
「わざわざ家に来るなんてどうかしたの?」
綱吉は暫くの沈黙のあと、真っ直ぐな瞳で私の目を見た
ああ、嫌な予感がする。
「オレ、イタリアに行くことになった」
タイミングを見計らったかのように私たちのあいだに強い風が吹き抜ける
高校、厳密には中学の途中から綱吉は変わった。
いつからだったか強い目をしてどこか遠くを見つめるようになって…遠くに行ってしまうようなそんな予感は常にあった
「だから今日は餞別をいいに来たんだ」
寂しげに微笑む綱吉はどこか儚くて…
彼は私の知らないうちに本当に遠い存在になってしまったみたい
「そっか、イタリア…」
どうしてもっと傍に居なかったのか、気持ちを伝えなかったのか、どうして…
むくむくと湧き上がる自責の念には気が付かないふりをして精一杯笑う
「あー…家入ってく?」
「せっかくだからお邪魔するよ
ケーキ買ってきたから食べよう、かりん好きだったろ」
「やった、ナミモリーヌのケーキ久しぶり」
* あの日の思い出。