こわいと泣きたかった


ルシはクリスタルの意思に従うために存在している。そんなことはとうに理解している。自身の意思がどうあろうと使命を果たさなくてはルシである意味がない。感情など失せて何も願うことなどなくなったはずだったのに、今の戦乱をこわいとセツナは感じていた。
根拠などない、ただこわいのだった。



「白のルシと戦ったのか」
朱雀クリスタルの間でシュユと居合わせたセツナはそう問う。どちらも甲型ルシであったため戦場となったトゴレスは跡形もなく吹き飛んだ。残っているのは抉られた大地だけ。
「クリスタルの意思に我は従った。朱雀を守ることこそが使命だ」
「お前は人の世に介入するのだな」
セツナが静かに呟いたのをシュユは不思議に思う。
「セツナ?人の世に介入したことは幾度とあるだろう。今になって何を言う」
クリスタルを見上げるセツナにどんな意志があるのかはわからない。まだ今の戦争で表へと出ることはしないセツナだが、戦争が続けばいずれはセツナも戦場に立つこととなるだろう。そんなことは長く生き何度も戦争を体験しているセツナの方がわかっているはずだった。
「わかっている。クリスタルは朱雀の平和を願いルシを使役している。ルシが人の世へ出てその力を発揮するのが常だった」
「ならばなぜ今になってそのようなことを言う」
セツナの言うことは不可解だった。ルシとして使命を理解している。戦場へ立つことも理解している。ならばシュユが甲型ルシとして戦うのは自然なことだと理解しているはず。それなのにセツナはシュユが人の世へ出ていくのを今になって躊躇うのか。
目を合わせることなく会話を続けていたがシュユはふと思い立ってセツナの正面へ移動した。そこで初めてセツナの怯えるような表情を目にする。
「セツナ……?」
「こわい……今までと何か違うのだ。お前にはわからないか?」
確かにこわいと言ったセツナは何かに怯えている。僅かな変化ではあるがセツナが感情を見せることなど今までなかった。
「いや……お前にはわからぬことだ。気にせずともよい。クリスタルの意思に従うのがルシだ」
セツナの感じる違いがシュユにはわからない。もう一度呼び掛けようとしたがすでにセツナはいつもの何もない表情をしていた。
「私は朱雀ルシ。使命を全うするために存在している」
「我もルシだ。クリスタルの意思に従う存在であることは同じ」
何に不安を感じているのかはわからない。それでもルシであり続けようとするセツナにシュユも同じような言葉を繰り返した。
「         」
「セツナ?」
「いや、愚問だった。忘れろ」
小さな声で何か言ったがセツナはそれきり黙ってしまう。それ以上は何も聞き出せぬだろうとシュユも黙ったままセツナの隣にいた。僅かな時間でも、交わす言葉がなくとも隣にいたかった。


死ぬのはこわいか?そう聞きたかったが、それを聞かれてもセツナ自身にも答えられはしない。自らが答えられぬのならシュユにも答えられぬだろうと思った。ルシであるかぎり意思などないのだから。






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